following Buson's Elegy:365Films by Jonas Mekas

ジョナス・メカスによる365日映画、8月、220日目。


Day 220: Jonas Mekas
Wednesday August 8th, 2007
5 min. 33 sec.

this one is for
Carrie who was
chosen by angels
to leave us
so soon, so young --

今回は
キャリーのために。
彼女は天使たちに選ばれ
すぐにわれわれのもとを去った、
ほんとうに幼かった・・・

アンソロジーのシアターで、小さなドラムの演奏をバックに、若い女性ダンサーが即興のダンスを披露する。黒ずくめの衣装は喪に服しているかのようだ。子どもの仕草など、パントマイムの要素を取り入れたように見える約5分間の創作舞踏。終わるとあっさりとステージ裏に姿を消した。ドラマーは見知らぬ若い男。

説明らしきものは一切ない。突然、以下のタイプ印刷されたフリップが写る。

thinking of you
I got to the
hillside
and wander --
the hillside --
why is it so
saddening?

Busson*1

これはYosa (no) Buson(与謝蕪村, 1716-1784)の"Elegy to the Old Man Hokuju"の第二連である。

オリジナルは「北寿老仙をいたむ」(1745)。

君をおもふて岡のべに行つ遊ぶ
をかのべ何ぞかくかなしき

この俳句とは異なる「俳体詩」と呼ばれる超江戸的な表現については、萩原朔太郎による高い評価などで有名であるが(萩原朔太郎『郷愁の詩人 与謝蕪村』「せんすのある話39-『京都 金福寺』荘司賢太郎」「文芸の中の女性〜与謝蕪村:春風馬堤曲(上)」参照。)、誰がメカスに教えたのだろうか。蕪村は「北寿老仙をいたむ」の他に、二篇の俳体詩、「春風馬堤曲」と「澱河歌」を書いた。いずれも安永六年(1777)出版の『夜半楽』に収められている。(潁原 退蔵「春風馬堤曲の源流」参照。)

メカスは以下のようなこの「北寿老仙をいたむ」の全体を英訳で読んで知っているはずである。

You left in the morning, at evening my heart is in a
thousand pieces.
Why is it so far away?


Thinking of you, I go up on the hill and wander.
Around the hill, why is it such a sadness?


Dandelions yellow and shepherds-purse blooming white ―
not anyone to look at them.


I hear a pheasant, calling and calling fervently.
Once a friend was there across the river, living.


Ghostly smoke rises and fades away with a west wind
strong in fields of small bamboo grasses and reedy fields.
Nowhere to leave for.


Once a friend was there across the river, living, but today
not even a bird sings a song.


You left in the morning, at evening my heart is in a
thousand pieces.
Why is it so far away?


In my grass hut by the Amida image I light no candle,
offer no flowers, and only sit here alone.
This evening, how invaluable it is.

(Translations here are based on Yuki Sawa and Edith M. Shiffert's)

オリジナルの全体は:

君あしたに去(さり)ぬゆふべのこころ千々に
何ぞはるかなる


君をおもふて岡のべに行つ遊ぶ
をかのべ何ぞかくかなしき


蒲公(たんぽぽ)の黄に薺(なづな)のしろう咲たる
見る人ぞなき


雉子(きぎす)のあるかひたなきに鳴を聞ば
友ありき河をへだてて住にき


へげ(変化)のけぶりのはと打(うち)ちれば西吹風の
はげしくて小竹原(おざさはら)真すげはら
のがるべきかたぞなき


友ありき河をへだてて住にきけふは
ほろろともなかぬ


君あしたに去ぬゆふべのこころ千々に
何ぞはるかなる


我庵(わがいほ)のあみだ仏ともし火もものせず
花もまゐらせずすごすごと彳(たたず)める今宵は
ことにたふとき

メカスが引用した第二連は、死んだ君(友)のことを思いながら、(思い出の?)岡の辺に行き、あてどなく彷徨うも、その場所が悲しみの色に深く染まる。そんな記憶の有り様を詠っているが、メカスにとっての、死んだ君とは一体誰なのか。キャリー(Carrie)、キャロライン(Caroline)とは黒装束で踊る若い女性ダンサーのことなのか、それとも・・・。全く分からない。

*1:"Buson"の綴り間違い。