記憶の彼方へ002:私の知らない父と私

見知らぬ若造が赤ん坊を大事そうに抱きかかえている。半世紀前の写真。撮影日時も場所も撮影者も不明。確かめる術はもうない。こういう写真はその時の体験の記憶が私のなかのどこかにしまわれている証しであると言えるのだろうか。表層では、たしかにこういう写真を手がかりにして私は記憶を書き換えるのだろう。こういうこともあったんだな、と。しかし、それ以前にもっと深い場処にそのときの体験は記憶されているという考えも捨て切れない。

デジタル・アーカイブ化の進まない大量の古い写真は今も古い菓子箱に収められたままである。