日本の大学で唯一のブドウとワインの研究所が山梨大学にある。その名も「ワイン科学研究センター」。60年以上の歴史をもつ。山梨といえば、ブドウの生産量日本一。
今日の朝日新聞朝刊で、「地方の国立大学が地域の特徴を生かしたユニークな研究所に力を入れている」という観点から、鳥取大学の乾燥地研究センター、北海道の室蘭工業大学の航空宇宙機システム研究センターと並んで、この山梨大学ワイン科学研究センターが紹介されていた。各大学がそれらの研究センターに力を入れているひとつの理由として「激化する大学間競争の中で、独自性を示すことで優秀な学生を確保し、生き残りにつなげる狙いもある」という国内の大学事情があるのは明らか。
気になったのは、とりわけブドウ栽培のように土壌や気候に大きく左右される場合の「地域の特徴」や「独自性」という観点だった。
というのも、昨日は同じ朝日新聞の「地球異変」をテーマにした特集記事で、「地球温暖化」の影響に直面するヨーロッパのワイン製造者たちの「闘い」が紹介されていたからである。
スペインはトレンプ地方のミゲス・トーレス社、ドイツはフライブルクのワイン醸造組合やドイツワイン研究所、イギリスはサセックス地方のワインメーカー「リッジビュー」と地元のプランプトン大学ワイン学部に取材した記事である。地球温暖化の影響に対する三者三様の姿勢がそれぞれに興味深かった。記事前半のスペインの事例が下のオンラインの記事で読める。
この記事は、「地域の特徴」や「独自性」が決して半永久的なものではなく、地球温暖化の影響によって大きく変化するものであることを前提にした「地域の特徴」や「独自性」の見方が必要であることを示唆している、と感じた。
例えば、ドイツでは昨年「アイスワイン」用のブドウが収穫できず、生産量ゼロという事態に至った。フライブルクのワイン製造組合のゲラルト・ランゲ組合長の諦念の言葉が紹介されていた。
アイスワイン用のブドウが収穫できなくとも、我々は自然の摂理に従うしかない。アイスワインは自然の芸術、自然の恵みなのだから。
ランゲさんの言葉には個人的には深い思想を感じる。
とはいえ、実際には一方で、スペインのミゲス・トーレス社や英国のリッジビュー社などが、30年、50年先の温暖化の影響を見越した対策を講じていることにもちゃんと目を向ける必要があるとも思う。今春、標高1200メートルの今はまだ気温が低すぎてブドウは作れない高地に約80ヘクタールの土地を購入したというミゲス・トーレス社のミゲス・トーレス社長は強い口調でこう語ったらしい。
土地の値段が安い今のうちに、30年、50年先を見すえて買った。気候変動とは徹底して闘う。
地球温暖化による甚大な変化も「自然の摂理」として受け入れた上で同じ土地で「次」を模索するのか、それとも、同じ条件を求めて新たな土地を手に入れるのか。日本のワイン製造者たちにとっても遠くない将来に突きつけられるかもしれない課題だと思った。