asin:462207351X 88–89頁
レヴィ= ストロースの写真集『サンパウロへのサウダージ』に収録された最後の写真に目が釘付けになった。高所から崖淵を走る道路の下に広がる平原を蛇行する川を望み、その果ての地平線の向こうには海の気配が感じられる壮大な景観。何だ、この景観は! 私は蛇行する古の石狩川のイメージを勝手に重ねて見ていた。
レヴィ= ストロース本人の説明によればこうである。
海岸山脈の側面の傾斜地に張りついて海岸から高原へと一気に登ってゆく目まいのするほど急峻な街道が、ヨーロッパから来た訪問者に熱帯雨林の最初のイメージを提供した。峠の頂にさしかかると、驚くべきスペクタクルが海の方角を望む旅人の目に飛び込んできた。そこでは大地と海とがあたかも天地創造の瞬間のように触れ合い、バナナ畑のあざやかな緑をなかば覆う真珠色の光沢をした霧のなかに沈み込んでいた。
リカルド・メンデスによる「写真解説」にはこうある。
1913年から1925年にかけて、海岸山脈を越えるかたちで建設されたサンパウロとサントス低地を結ぶカミーニョ・ド・マール街道から眺めた沿岸地帯のパノラマ。写真はおそらく、ランショ・ダ・マヨリダージの休憩所がある47キロメートル地点から撮影されたものと思われる。この街道は海岸部への主要な幹線道路であったが、50年代にアンシエタ・ハイウェイが建設された後は一般車の通行が禁止されている。
(同上99頁)
メンデスの記述から推定するに、撮影地点はこのあたりではないかと思われる。
なお、リカルド・メンデスに関して今福龍太は「あとがき」でこう触れている。
本書の前半部を構成するレヴィ= ストロースの写真集の原著『サンパウロへのサウダージ』はブラジル版が刊行されているだけで、その編集と詳細な解説はもっぱらサンパウロの写真家・メディア研究者リカルド・メンデスの貴重な調査に負っている。彼の作成した撮影地点を示す対照地図(本書の第一の見返しに収録したもの)がなければ、私の追跡行ははじめから入口を断たれていたであろう。
(同上202頁)