中上健次と宮本常一

中上健次の部落認識と「路地」観について調べていて、猿回し師の村崎修二宮本常一から聞かされたという中上健次の逸話を思い出した。

 村崎にとって宮本が話した中上健次のことも忘れがたいものだった。芥川賞をとるだいぶ以前、中上が部落問題について宮本に教えを乞いにきたことがあった。宮本は自分の知っている限りのことを親切に教えてやったが、後年、部落をテーマにした中上の作品を読んで、村崎に言った。
「中上は部落ちうもんをわかっておらんなあ。中上の部落認識は暗くて浅いのや」
 それは裏を返せば、自分の部落認識は深くて明るいという宮本の自負の言葉でもあった。
 宮本は村崎に向かって、よくこういった。
「一番うしろを歩け、地獄を歩け」

 佐野眞一『旅する巨人 宮本常一渋沢敬三』(asin:4163523103)343頁

(文学的)想像力の限界ということに思いを巡らしていた。


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