どこからともなく、見知らぬ生き物の聞いたことのない唸り声が断続的に聞こえてきた。あれ、こんなところに自転車だ。だが、持ち主の姿はどこにも見当たらない。と突然上から「ハァー」という大きな声が降ってきて、ぎょっとして見上げると、そこにTさんがいた。桜の樹の上で何か作業をしながら私の知らない歌を歌っていたのだった。やれやれ。
桜樹上のTさん。「枝の剪定してるんですか?」「んんや、サクランボとってるんだ」「ああ、そーでしたか」「どれ、帽子構えてろ、落としてやるから」そういって、片手一杯のサクランボの実を私があわててかかげた帽子を狙ってバラバラと落としてくれた。
思わずひとつ口に入れ、味わった。酸味と甘味のバランスがよく、美味かった。「ウマいですねえ!」「そーかい」「落ちないように気をつけて下さい」「あー」何の歌を歌っていたのか聞くのを忘れた。