アルバムが何冊あっても足りんだろー

風太郎時代からの顔見知りで、風太郎亡き後に、向こうから「寂しいなあ」と声をかけてくれてから、言葉を交わすようになった年配の塚本さんは、まるで晩年のチェット・ベイカーを彷彿とさせる渋い風貌である。塚本さんは細長い土地で家庭菜園と花壇を楽しんでいる。今年もナス、カボチャ、トマト、枝豆などの各種野菜のほか、エゾノシモツケソウ、キク各種、ダリア、コスモスなども育てている。全般的に渋い傾向の選択である。冬の間に腰を痛めたせいで思うように動けないと春先には愚痴をこぼしていたが、次第に回復し、今では毎朝出会う。出会うと必ずどちらからともなく声をかける。咲き始めた花の話題には事欠かない。いつの頃からか、「何撮ってるんだ」とか「何か撮るものでもあるのか」とか私が写真を撮っていることに興味を示しはじめた。そのうち「なかなかいい趣味だ」などと褒めてくれるようになった。悪い気はしない。そんな塚本さんの言葉はいつも簡潔である。切れ味のよい包丁のようにすぱっと短い言葉を口にする。ドスのきいた声である。今は余生をのんびりと生きている風だが、昔はどんな稼業についていたのかと思わせる。最近はなぜかサングラスをかけているのでより一層凄みが増している。今朝は、私の方から「梅雨みたいな天気が続きますね」と声をかけた。「そうだな」と相づちをうった後、すぐにBさんはこう続けた。「アルバムが何冊あっても足りんだろう」。受けた。「デジタルですから、、」などと野暮なことは言わなかった。