退屈で、たまんねえ!


ある朝、サフラン公園の東屋でめずらしく(というのは、私が「サフラン倶楽部」と名づけた、メンバーは入れ替わるが、少なくともいつも四、五人はいる、お年寄りたちのグループの中にいることが多いから)独りで腰掛けて俯いているSさんに声を掛けた。腰の調子はどうですか? 今整骨院にいってきたところだという。いつもの笑顔がない。切なそう。痛いのだろう。世間話にのってこない。けっしておしゃべりではなく、どちらかと言えば寡黙なSさんだが、そのときばかりは、腰の痛みだけでなく、腰の痛みよりも大きな何かを堪えているようにも見えた。顔見知りのおばあさんがそばにやってきて、Sさんに声をかけた。そのとき、私に対しては発したことのない吐き捨てるような強い声で、「退屈で、たまんねえ!」と一瞬空を見上げて、苦笑いして、また俯いた。特に誰に対して、何に対して、というわけではなく、どうしようもなく天に向かって吐いてしまったのだろう。Sさんがこれまでどんな人生を歩んできたかを知らない。Sさんも私のことについては、風太郎と散歩していたと思ったら、今度はカメラと散歩しているくらいのことしか知らない(いい趣味だな、と言ってくれた)。そういう意味ではお互いによく知らない。


その後、Sさんは遠くで私に気がつくと手を振って合図してくれるようになった。私も思いきり手を振り返す。ただそれだけ。