先日、室蘭市の廃社された本町神社の祭神名が判読できないと書いた。
廃社された本町神社。由緒未詳。「伊*白子大神/稲荷**」? 判読できない。
それをたまたまご覧になったご近所の上野さんが『新室蘭市史』の第三巻、802頁に本町神社の記載があるとお知らせ下さり、今朝そのコピーをいただいた。正式名称は「本町稲荷神社」。
バンダナと髭がカッコいい、ただ者ではない上野さん。本町稲荷神社の一件だけでなく、イザベラ・バードに関するたいへん面白い話も聞かせてくださった。
この神社は、明治23年に新潟県から室蘭に来住した松崎丑蔵が、昭和8年5月に創立した。祭神は稲荷大明神と伊夜日子大神の二神。丑蔵は信仰心の厚い人であったが、医師に見離された病気が稲荷大明神への祈願で治ったということで、大正13年に神道大日本稲荷教会の布教局を設け、昭和8年に九尺に二間の社殿を建立した。これには新潟県人会の援助があったが、付近の人たちばかりでなく、広く胆振地方全域から信者を集めた。のちに本町町会が同社の祭事いっさいを引き受けることにした。祭日は7月24日、25日。
なるほど、「稲荷**」は「稲荷大明神」で、「伊*白子大神」は「伊夜日子(いやひこ)大神」だった。稲荷大明神はいいとして、伊夜日子大神ってどこのどんな神様? ちょっと調べてみて驚いた。直接の由来は新潟(越後)の「弥彦神」のようだが、弥彦神を祀る神社は北海道から九州まで数多くある。表記にも「彌彦」「伊彌彦」「伊屋彦」「伊夜彦」「伊夜比古」「禰彦」「弥彦」「射矢止」など興味深い揺れが見られる。ちなみに男神である。しかも、能登の火祭りとして有名な伊夜比咩(いやひめ)神社のオスズミ祭では7月31日の夜(今夜!)、大屋津媛命(おおやつひめのみこと)という女神が、越後の弥彦神を呼び寄せ、年に一度の夫婦の逢瀬を楽しむと伝えられるという。へーっ!
北海道から見るなら、越後や佐渡から能登、(大屋津媛命に関しては紀州、紀の国=木の国)、さらに日本海を越えて半島や大陸へつながる人間の移動や権力の移譲に伴う<神の道>が見え隠れするではないか。室蘭市の電信浜の散歩で遭遇した廃社された神社の記録がそこまでいろいろとつながるとは。日本史の常識なのかもしれませんが、寡聞にして知りませんでした。上野さん、どうもありがとうございました。
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