ぺこん、ひっくりかえり、ぽこぺぽんともどる。遠いように、耳もとのように聞こえる。そっと息を吹きこむ。おっかないののちに、おもしろいが来た。いまも、そんなことがある。
(中略)
うれしいがはぜ、悲しいがとびあがる。こわごわ息をふきこみ、ぺこぽんと聞こえる。かわいいのに、手ばなした。悲しいのに、あとをひいた。腐っているのに、見とれた。こわれたから、きちんとおさまった。ひっくりかえってあらわれたのは、頭のなかでは見られぬものばかりだった。ぽこんと恐れ、ぺこんぺこんと知ったから、おもしろかった。
(中略)
それでも鼓膜のはてでぽこりんと鳴れば、えへらえへらとすることもある。石田千『ぽっぺん』新潮社、2007年、180頁〜181頁
「ぽっぺん」とは、あのビードロ(vidro)のこと。「鼓膜のはて」のような楽器=玩具。いいなあ。