言葉

浜言葉と津軽弁

asin:4877990704 祖父母の東北訛を聞いて育った私にとっては懐かしい言葉が文字を通して聞こえてきた。 「ちっこいけど、けるよ」 浜言葉を分かりやすく訳せば、小さいが、上げるから持っていけ、と。漁から戻ってきたばかりの舟の生簀から、漁師のおかみさ…

ぽっぺん、鼓膜のはて

ぺこん、ひっくりかえり、ぽこぺぽんともどる。遠いように、耳もとのように聞こえる。そっと息を吹きこむ。おっかないののちに、おもしろいが来た。いまも、そんなことがある。 (中略) うれしいがはぜ、悲しいがとびあがる。こわごわ息をふきこみ、ぺこぽ…

ロバート・フランクに倣いて

Robert Frank: Paris作者: Robert Frank,Ute Eskildsen出版社/メーカー: Steidl発売日: 2008/05/22メディア: ハードカバー クリック: 1回この商品を含むブログ (3件) を見る ロバート・フランクが語ったように、言葉は思い通りにはならないし、写真だって、…

私が選んだ秋の二首

ところでホンマに秋なんか来るんかネェ。(南無さん) 私は秋に向かって更に加速する。(sakehamachiさん) そちらほどではありませんが、札幌も例年にくらべかなり蒸し暑い日が続いています。毎朝、汗をかきに行く覚悟で散歩に出ては、嘘ではなく優に1リッ…

長音の秘密

鳥取で「野の花診療所」を営む徳永進さんは、病棟に響くいろんな声のなかにひとつの法則のようなものを発見した。 病棟にはいろんな声がある。「おーい、おーい」「かんごふさーん、かんごふさーん」「死なしてー」「助けてー」「ありがとー」 ぼくは、この…

「海女」の俳句に目覚めた朝

朝日新聞朝刊の俳壇で、金子兜太選の最初の句の「海女」に目がとまり、一気に目が覚めた。いい句だなあ。三重県南伊勢町の方か、、。選評には「母たちも海女だったのだ。今日も、潮のしみた娘たちを迎えて、母の日が終わる」とある。潮の香が漂う。海女に関…

無音、語られえない重さ

下から上に Toriino [トリーノ] 2009 Summer(表紙:加山又造、写真:前田真三、臼井薫、藤原新也、岩合光昭) Toriino [トリーノ] 2009 Autumn(表紙:加山又造、写真:前田真三、奈良原一高、雜賀雄二、藤原新也、岩合光昭) Toriino [トリーノ] 2009 Wint…

旅と言葉6:本物のパタゴニア・エキスプレス

asin:4336039569 ルイス・セプルベダ(Luis Sepulveda, 1949–)*1 最近は夜な夜な「地の果て」、「世界の果て」パタゴニアを、マゼラン以来西洋人の想像力をかきたててきたというパタゴニア、ある意味で西洋人の想像力の果て、限界をうろついている。デスク…

旅と言葉5:パタゴニア的な死

W. H. Hudson by MICHAEL RENTON, 1984 ボストン南駅から原則的に汽車を乗り次いで延々数か月かかってようやくパタゴニアに着いたポール・セルーは、初めてそこに立ち、目の当たりにするパタゴニアの荒涼たる風景のなかで、一種の宙づり感覚に襲われたことを…

旅と言葉4:翻訳、あるいは、世界というやすりを使って、自分を削ること

Nicolas Bouvier: Oeuvres, col. Quatro, Éd. Gallimard, 2004 asin:462207298X asin:4794205759 2004年にガリマール社から出た新しい文学叢書クワルト版(Quarto)の1400頁余りのニコラ・ブーヴィエ作品集には、彼が生前刊行したほとんどすべての作品が収め…

旅と言葉3

Paul Theroux, el rostro de la felicidad. Por Daniel Mordzinski*1 asin:4062010755 asin:4560043159 asin:4839700966 旅について穿った見方をしていたポール・セルー(Paul Edward Theroux, born April 10, 1941)は、「実験旅行」と称して、ボストン市郊…

旅と言葉

asin:4560042969 asin:4087465004 ヴェルナー・ヘルツォークの旅に久しぶりに付き合う。何年ぶりだろう。何度目だろう。彼と一緒にミュンヘンを発って、徒歩で、パリに向かう。ミュンヘンからパリまで歩くというスケールとしては小さな旅だ。だが、一週間た…

旅と言葉2

asin:4560042969 「全ての装備を知恵に置き換えること」(イヴォン・シュイナード&石川直樹)と言うからには、単なる知識や情報を伝える一般的な言葉を、知恵を物語る特異な言葉に置き換える努力も含まれるはずだ。言葉は原初的な「装備」であり、今や言葉…

Let's get astray

かつてチェット・ベイカーが限りなく軽快に演奏し、限りなく虚ろに歌ったレッツ・ゲット・ロスト(Let's get lost)のニュアンスに近いレッツ・ゲット・アストレイ(Let's get astray)。アストレイ(astray)はストレイ(stray)の派生語。ストレイと言えば…

荒野の庭

花々の指紋―言葉、写真、作庭 荒野の庭―言葉、写真、作庭 ひと月前の『花々の指紋』に続いて、丸山健二の写文集『荒野の庭』を見る、読む。もの凄い気合いが入ってるなあ。長野の広大な土地に広い庭、大きな家。独身なのか。よく知らない。コダックDSC760(h…

言葉の力

言葉を使って嘆かないようにするいまは 天水(「裏庭日記」2009-08-21) 犬が死んでから朝歩くということもあまり無くなって、従って体調も好いとは云えなくなった。まだ薄暗い時間であったが徐々に明るくなる中、ひたすら当てもなく歩いていた。やがて辺り…

トートロジーと矛盾

世界がどんなでも真になる命題をトートロジーという。逆にどんな世界でも偽になる命題を矛盾という。トートロジーは意味に満ちあふれすぎて無意味になり、矛盾は意味をなさないことによってかえって思いもかけない意味を生み出す。トートロジーと矛盾の間に…

言葉の力

このエントリーをアップしようとしたら、またまた恐ろしいタイミングで、下川さん(id:Emmaus)からコメントが入りました(http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20090829/p1#c1251552305)。下川さん、本質的には応答にもなるのではないかと思うので、このエン…

オカイコサン(お蚕さん)

ヤマグワ(山桑, Mulberry, Morus bombycis) 近所のYさんが亡くなってもう3年経つ。主を失った家と庭はそのままだ。人が住まなくなった家からは少しずつ確実に体温のようなものが消えていくのが分かる。そして少しずつ自然に還っていくその庭を眺めるたび…

見えないつながり

書けないことがあるから書く。そして書くことと書かないことは紙一重のなかで書き続けるのだろう。 思い出したものが悲しみを連れてくるのではなく、いつでも、ふいに、悲しみが思い出を連れてくるのだ。 哀別の風景(『坂のある非風景』2008 / 02 / 18) 南…

嘘の倫理

今年もたくさん嘘をついていきたい。 二月のご挨拶(『平民新聞』2009-02-01) 風太郎が死んだ日に、heiminはこんな不謹慎なことを書いていた、と言いたい訳じゃない。敢えて「嘘」と書く、書き手としての最低限の倫理観のようなものをheiminは潔く正直に表…

言葉の復讐

金ちゃんが年頭のエントリー「あけまして」で "Free" や "Liberty" の訳語として明治期に編み出された「自由」という言葉の由来と意味をめぐって、日本語論、翻訳論としても読める面白いことを書いていた。いつもそうだが、そこで明らかに語られていることも…

言葉が自ら弾け飛んで

託された思いに押しつぶされたような言葉に付き合うのに疲れ果てた時、言葉が自ら弾け飛んで、私の思いなんて、笑い声とともに部屋の空気や壁の中に消えていく、そんな言葉との儚い連帯のような感覚が呼び覚まされる時、幸せな気持ちになる。 かっぱ えび せ…

おまじない

夢は、それ自体に意味があるわけではなくて、 島尾伸三『季節風』33頁

盲目の父と男の子

ジュンク堂書店北側向かいのガラス建築。 昨日はジュンク堂書店のプレオープンに足を運び、島尾伸三の本を三冊購入した。『東京〜奄美 損なわれた時を求めて』(asin:4309016197)のほかに、『季節風』(asin:4622044064)と『中華幻紀』。札幌のジュンク堂…

悲惨。損なわれた時を求める島尾伸三

大好きな写真家の島尾伸三が島尾敏雄と島尾ミホの長男であることを知ったのはいつだったろうか。そのとき、彼の写真や文章に惹かれる理由が分かったような気がしたことをぼんやりと覚えている。ずいぶんと曖昧な書き方だ。大好きと言うわりには、手元にはボ…

思い出すそばから、葬るくせに

id:KaKaさんが教えてくれた、「思い出すそばから、葬るくせに」という歌詞にドキリとした「赤の予感」の歌(http://www.youtube.com/watch?v=-pXMhv--tC4)をめぐって、下川さんとすれ違った。 思いだすそばから葬るか。http://d.hatena.ne.jp/Emmaus/200811…

「雨降る夜」と「あたたかい」の間に

昨夜は、スガハラさんの「雨降る夜はあたたかい」という題名の下に綴られた文章に深い傷のような割れ目を強く感じて、思わず返歌のようなエントリーを書いた。一見さりげない題名「雨降る夜はあたたかい」にひっかかった。それでなくても寒いこの時期、雨降…

ブラジルの遠い谺

サンパウロ在住の写真家・楮佐古晶章(かじさこあきのり)さんの「今日のブラジル 写真日記(Photograph diary)」(『南米漂流』)を読んでいて、「遠い谺」を聞くような錯覚を抱いた。 「8・25 洒落たお店の増加」 「8・25 撮りたい写真」 「8・2…