ストラスブールから届いた楽譜:果てしない旅の歌


小島剛一さんと眺めた利尻富士(1,721m)。2011年9月4日撮影。


夏休みに小島剛一さんと北海道を反時計回りにほぼ一周する旅をした。その記録を断続的に書いてきた。


日本滞在を終えて九月の半ば過ぎにストラスブールに戻った小島剛一さんとは、その後もメールで色んな内容のやりとりをしてきた。そのうち十月後半にさしかかった頃に、驚くべき内容のメールが届いた。数日前から夢に繰り返し聞こえた歌があって、それを譜面におこして今年度の新曲として合唱団のレパートリーに加えるというのである。その歌詞は、私の勝手な解釈によれば、夏休みの旅の思い出が小島剛一さんの果てしない旅のような人生の一コマとして織り込まれたもので、私の散歩のような人生を果てしなく広がる海に解き放ってくれるような魅力的な内容だった。もちろん、歌詞の解釈は万人に開かれている。

友よ いづちの言の葉も


出湯に浸り 語らへば
波間に霞む青き影
君と登らんあの山は
この蝦夷が島と火を分けし
利尻富士
波の彼方の豊けき島へ
通ひ往く舟に海鳥群れ飛ぶ

「友よ いづちの言の葉も
 湧き出でて止まぬ君なれば
 いづこの国も故郷の
 馴れにし里の如くならん
 汝が故郷の」


雲間に輝く白き峰
旅へと誘ふ火の山よ
出湯に浸りつ語らふ胸に
赤く火燈す遠き影
利尻富士

「澪の彼方の遥けき国の
 幾多の里の民が言の葉の
     言の葉の大海を
 友よ 涯無き大海を 
 漕ぎつつ渡る我が身には
 いづちの浦に舫ふとも
 さても変はらぬ稀人の
 一夜の宿り 波枕
 片時の夢の宴」


  © 小島剛一

そして十一月の初めに、完成した新曲「友よ いづちの言の葉も」の楽譜を私宛に「Prioritaire」で投函したという知らせが入った。フランスの郵便局では、すでに「Prioritaire」しかなくなっているという追伸が添えられて。



それからちょうど十日目の昨日、十日前の消印のあるLettre Prioritaire Internationale(国際優先便)が届いた。大きな封筒の中には、薄いビニール袋に大切に包まれた六枚から成るホヤホヤの歌詞付きの楽譜が入っていた。小島剛一さんによれば、楽譜はすでに合唱団員に配布され、みんな大喜びのうちに、第一回目の歌合わせも行われたという。フランス人の合唱団員が私にとっても非常に感慨深いこの日本語の歌詞を、小島剛一さんの指揮によって、どう歌い上げるのか、どんな和声が響き渡るのか。いつか生の歌声が聴ける日が来ることを楽しみにしている。








© 小島剛一


ここにその楽譜を掲載することについては、作詞作曲者である小島剛一さんご本人からご快諾いただいたが、以下のような作曲法上のとくに和声に関する重要な注釈をお寄せいただいた。

「友よ いづちの言の葉も」の和声は、西洋音楽の和声法・対位法に似た部分と小島剛一式日本音楽和声法・対位法の部分とが交代し、絡み合います。西洋音楽の古典的な作曲法しか知らない人に楽譜を見せると「並行五度が随所にあるから作曲法を知らない」とか「一箇所、並行八度がある。とんでもない間違いだ」とか言うかもしれません。「並行五度」云々という人には「この曲は、バロック音楽でもロマン派音楽でもない。第一、西洋音楽ではない」と、「並行八度(第四ページ、一段目の最後から二段目の初めにかけて。アルトとテノールの間)」に気付いた人には「譜面だけを見ると内声同士の並行八度のようだけれど、響きの上では全然そうではない。アルトとソプラノの旋律が交錯しているし、間に休符がある」と答えてください。


なお、小島剛一さんはこの曲に興味を持たれた方であれば、どなたが演奏しても構わないと考えておられる。しかし、公開演奏の場合にはコメントかメールで、どうかご一報願いたい。小島剛一さんにその旨お伝えし、しかるべき助言をいただいだ上でお返事します。