日本一小さなワイナリーthe smallest winery in Japan

藻岩山から西側に連なる山の峠道(小林峠)を超えると、盤渓(ばんけい)という渓谷に出る。そこからさらに小高い峠道(盤渓峠)を少し登ったところに、「日本一小さなワイナリー」と愛情籠めて呼ばれるばんけい峠のワイナリー(Bankei Valley Winery)がある。

自宅から車で15分くらいの距離だから、近所と言ってもいい。以前から気になってはいたが、オープンするのは月一度の二日間の「テイスティグの会・販売日」だけなので、今までは行きそびれていた。今日は7月の開店日二日目だということを突然思い出して、ちょっと行ってきた。


予想を遥かに超えて、素晴らしい場所だった。ご夫婦二人だけできりもりしている本当に小さな、でもブドウを初めとする植物や土地に対する深い愛情に支えられたとても気持ちのいいワイナリーだった。

ブドウ畑の周囲にはライ麦(rye, Secale cereale)も栽培されていた。ライ麦の穂が美しかった。気さくで優しい物腰のご主人、「樽人」田村修二さんが暖かく迎えてくれて、ブドウ畑に案内してくれたり、北海道ならではのブドウ栽培の苦労話を幸せそうに語ってくれたり、北海道の土地に根ざした真に豊かな生活の理想とそれを実現するためのたゆまぬ努力等について、しみじみと楽しそうに話してくれた。

普段はブドウの苗木を育てる温室に使われている場所を開け放ち、オープンカフェに仕立ててあって、ブドウ畑が見渡せるそこで妻は白ワインを、私はコーヒーを飲みながら、自家製のライ麦シードル酵母パン、奥様手作りの抹茶シフォンケーキ、そして韃靼蕎麦を使った薄い生地を焼いてチーズとルッコラ(rucola, Rocket, Eruca vesicaria)を乗せた絶妙の味わいのクレープを頂いた。足元にはご主人が愛情籠めて育てる苗木がいくつかあった。ご主人によれば、カベルネソービニオン種(Carbernet Sauvignon)の苗木は育たたず枯れて、メルロー種(Merlot)は育つものの、今までなかなか実がならなかったそうだ。セーベル種(Sevel)は順調らしい。

まだ学生のように見える若いカップルも来訪し、ご主人の説明を聞きながら、セレクションを楽しんでいた。私たちは樽生赤ワイン2005(仁木町のキャンベル種使用)と白ワイン2006(仁木町のナイヤガラ種使用)を買った。

帰り際、ご主人は山葡萄(wild vine, Vitis Coignetiae)畑にも案内してくれた。もともとは裏山の野生のものを「家畜化」したのだという。「こうして棚で支えてやると、たわわに実をつけてくるんですよ」というご主人の言葉に山葡萄との間の深いコミュニケーションを感じた。