漫画の混植:アンチック体?

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漫画で使用される書体に関しては「混植」(アンチゴチ)が一般的であると初めて知った。

現在の一般的な漫画雑誌や単行本では、漢字部分をゴシック体、かな部分を明朝体という書体とした混植が一般的である(これをアンチゴチという)。*2

え?「アンチ」ってまさか「反」じゃないよな、何だろう?と思って調べたら、「アンチック体」のことだった。アンチック体とゴシック体の混植というわけだった。

この書体は、書体の種類が乏しかった戦前に生まれました。元々は金属活字のゴシック体(漢字)に合わせてデザインされたとされる肉太な仮名文字で、これがアンチック体の源流です。その時期は現在のゴシック体の仮名のデザインに落ち着くまでに試行錯誤が行われていたようです。金属活字で文字が組まれるのが一般的だった昭和前半までの印刷物に、ゴシック体+アンチック体の混ぜ組みを見ることができます。写研のものは写植最古のアンチック体で、1935年に誕生しました。

 写植の書体数が今より少なかった1970年代前半あたりまでは、特太明朝体の仮名をアンチック体に組み替えてより力強い表現を求めることもありましたが、現在では漫画の吹き出しに使われるのが殆どです。漫画の吹き出しに使われる書体は、かつては明朝体が主流でしたが、1960年代には現在のような「石井太ゴシック体+中見出しアンチック」(いずれも写研)が定番になりました。このスタイルが定着した理由は不明ですが、吹き出しの周りの絵に負けない“黒さ”と、筆書きに忠実であまり主張しない字面がどんな絵柄にも溶け込むからなのではないかと思います。


「へーっ、そうなんだ」と思って、子供部屋にあった樋口大輔著『ホイッスル!Number.1』(集英社、1998年)で確認してみたら、基本的には確かにそうだった。

63頁

70頁

もちろん、実際には内心の声は細い明朝体が使われたり、叫び声には太い丸ゴシック体が使われたり、オノマトペには手書き文字が使われたりと、多彩な活字の組版になっている。他人事だが、漫画の組版はかなり大変な、気の遠くなるような作業のような気がする。案の定、以下のような記事が少なからずある。

この記事のなかに、清水直紀氏(共同印刷出版情報事業部営業企画部部長)が、マンガの制作現場でデジタル化が遅れている二つの理由について語るところがある。

「いまだに、紙ベースの画稿が主流であることが理由の一つに挙げられます。従来どおり手描きスタイルのマンガ作家が多いため、我々の手元に届く画稿の8割が紙ベースとなっており、残り2割がようやくデータ化された状況です」

もう一つの大きな理由は、マンガ独特の組版や文字表現にあると言う。「マンガは一見、単純にできているように見えますが、形や大きさが異なる吹き出しの中にきっちりと文字を組まなければなりません。また、漢字すべてにルビをふる“総ルビ”のほか、通常の出版物では使わないような文字表現、たとえば、『あ』に『 ゛』や『お』に『 ゛』、ビックリマークが4つ並ぶ『!!!!』といった独特の表現を多用するため、デジタル環境での作業は複雑で手間も時間もかかります」

なるほど。それは大変だ。

昨日(2008/02/09)、takuoさんから教えられた「修悦体」の誕生が活字のひとつの「前衛」だとするなら、漫画の印刷の世界にもうひとつの「前衛」があるような気がした。

ところで、漫画家は自作漫画の書体を自由に選定、指定することはできるのだろうか。私が昔本を出したときには編集者まかせで一切口出しはできなかった。詩集では、アメリカのある詩人が例えばオプティマOptima)で組むことを指定して、その仕上がりに喜んだという話を聞いたことがあるが。

なお、『日本語練習中』に漫画の「ふきだし」への注目から、アンチゴチのルーツを探る渋く興味深い記事がある。