哲学者の思想と生涯

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以前「手の思想」とでも呼ぶべき文脈で触れた、滞米中に観た哲学者ジャック・デリダドキュメンタリー映画のことを別の文脈で思い出していた。

そのドキュメンタリーの中で、たしかカリフォルニア大学アーバイン校に彼のアーカイブが設立されたことを記念する講演会でデリダが哲学者の思想と生涯について語るシーンがあった。

デリダは力強い口調のフランス語訛りの英語でこう語っていた。哲学者の生涯は、「生まれ、考え、そして死んだ」である。それ以外はアネクドート(逸話)に過ぎない。大切なのはその思想である。哲学者の生涯に関するおしゃべりは慎もう。だいたいそんな内容だった。(彼はその数年後、私が滞米中に死んだ。その年、2004年は私の父が死に、デリダが死に、ソンタグが死んだ年だった。父とデリダは同い年、享年74歳だった。)それは哲学者に限った話ではないのかもしれないとそのとき思ったことを覚えている。

しかし、思想は生涯から生み出されたものでもある。そして生涯をなす様々な要素のなかに、逸話としてしか語られないことのなかにさえ、思想の種子が孕まれていないと断言することもできないだろう、とも思う。だから、私はむしろ逸話的情報にこだわるところがある。