スモールマガジン『ようこそ北へ2008』フラッシュバック2:誰からも愛される罪な男

坂東慶太(id:keitabando)に初めて会った。三日間断続的に行動を共にした。7月29日(水)夕方、二風谷から再び新千歳空港に舞い戻って彼を拾った。日に焼けた顔に真っ白な歯、身長177cmの好青年だった。こいつがあのMyOpenArchive(http://www.myopenarchive.org/)を運営している男なのか。最初はなかなか結びつかなかった。私たち三人は当初のスケジュール通り、あのヒグマの親子がいる支笏湖畔で遊び、秘湯丸駒温泉の野趣あふれる露天風呂でいきなり裸の付き合いを始めた。いつまでも浸かっていられる絶妙の湯の温度に私たちは時が経つのを忘れた。丸駒温泉合宿というアイデアが誰からともなく湯気のように立ち上っていた。露天風呂での裸の写真を撮り損ねたことが返す返すも悔やまれる。

7月30日(木)午後、坂東慶太は「特別講義」のトップバッターを買って出てくれた。用意してあったスライドを映写しながら、目の前に集まった15名の学生たちに向かって、彼らには縁遠い世界の話だと思われかねないMOAを始めた理由と意義を職場での体験や生活の基本的な視点から懇切丁寧に語った。その飾らない性格と学生たちへの配慮の行き届いた柔らかい語りが、学生たちにもストレートに伝わっているのを、私はその場で感じていた。こいつならいい先生にもなれる。そうも確信した。会場の設営でもまめに動いたり、遅れてやってきた学生たちに対する配慮も欠かさない男だった。

坂東慶太の情熱の源泉はいたってシンプルだ。イイものを埋もれたままにしておくのはもったいない。ほっておけば存在しなかったに等しいイイものたちがちゃんと存在できるような場所、器を作ってあげたい。そういうものがあったほうがイイに決まっている。でも誰もそんなことをしない。じゃ、分からないことは沢山あるけど、やってみよう。とにかくやり始めてみよう。そんな心意気が彼の現実を動かしている。彼の話を聞きながら、私はジョナス・メカスのアンソロジー・フィルム・アーカイブズの仕事を連想していた。坂東慶太はウェブ界のジョナス・メカスみたいな男だ。そう感じた。

7月31日(金)夜、サッポロビール園ケッセルホールで、田中さんとカニさんと共に、サッポロビール生をぐびぐび呑みながら、ジンギスカンをむしゃむしゃ食いながら、私たちは色んなことを語り合った。19:00に新千歳空港に向かう田中さんとカニさんとお別れした後も閉店まで語り合った。力の出し方について。人生のコントロールの仕方について。サーフィンの仕方について。などなど。

私が会計を済ませてふと見やると、坂東慶太が若いウエートレスにではなく、若いウエートレスが坂東慶太に話しかけているではないか。「名古屋の美味しいモノ何ですか?教えてくださーい。」とか何とか。こちらから話しかけることはあっても、向こうからそんな風に話しかけられた経験のない爺はちょっとひがんで、止せばいいのに横から口を挟んでしまった。「名古屋で一番おいしい男がこの人ね。」受けていた。受けてはいたが、私は複雑な気持ちだった。悔しかったがこんな写真まで撮ってあげてしまった。

仕方ない。この男なら。誰からも愛される罪な男。