声問岬

6日、朝8時頃に稚内駅近くのホテルをチェックアウトして、宗谷岬に向かった。途中、「声問川」の大きな看板が目に飛び込んできて、頭の片隅に昨夜読んだ司馬遼太郎の『オホーツク街道』(asin:4022641363)に書かれていたコエトイのイメージがぼんやりと浮かんだ。迷わず、声問岬に通じる声問川に沿った細い道に入った。声問川の河口近くに廃船が放置されていた。アスファルトが途切れる場所で停車し、車を降りて、磯の香りに包まれて、岬の先端まで歩いた。ブルーのペンキが剥げかかった番屋、昆布干し。妙に懐かしい風景が広がっていた。寂しさと温かさが入り交じった気分に浸っていた。声問岬を後にして、白鳥が見られるかもしれないというカミさんの一声で、近くの大沼に向かった。

おおおお! 白鳥と雁の大群が岸辺で一休み中だった。近づいても逃げなかった。

 アイヌの地名は、山河の形象をみつけてつけている。
 コエトイの原形である”コイトゥイェ”もそうである。『地名解』では、”コイ・トゥイェ”で浪越(なみこえ)。浪のために砂場が決潰[けっかい]するところという意味らしい。なるほど川があって、その川尻が海岸砂丘にはばまれている。しかも、風浪がその砂丘の一部をくずしかねないような地形である。
 地図によって声問のあたりをみると、背後に大沼があって四方から細流を集めている。その大沼から声問川が海に向かってながれているために流路はごくみじかい。
 沼あり、湿原あり、海ありという声問の自然は、古代の採集生活にとっていい場所で、従って遺跡も重層している。

 (司馬遼太郎オホーツク街道』228頁)