姜信子さんへ




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 そのとき、私の心の中の固く渇いた石のうえに、ひらり、小さな蝶が舞い降りた。そして、羽を大きく開いた。ふわりと飛び立ちました。私を連れて、ふわりと。
 どこへ?
 さあ、わかりません。でも、どこにいこうとも、どこにいようとも、もう同じこと。男の声、おばあの声、私の声、あなたの声、この耳を打つ生きとし生けるものたちすべての声で日々織り上げられていくこのざわめきの世界こそが私で、私が世界であるならば……。

 私の話はこれでおしまい。私ひとり、長々、話しすぎてしまったようです、今度は、あなたの旅の話を聞かせていただきましょうか。(姜信子『ナミイ! 八重山のおばあの歌物語』210頁)

 わたしたちはいつも独り、旅の途中、つながっては旅立ってゆく、だから、切れたところは、さあ、つないでいきましょう。(姜信子『イリオモテ』153頁


姜信子(きょうのぶこ)さん、ご苦労様。ひょんなことからあなたの本に出会いました。きっかけは、チャトウィンかな、石牟礼道子かな、もしかしたらジョン・クラカワーだったかな? 思い出せません。でもとにかく私はあなたの「旅」の物語に引き込まれ、この数日ずいぶん遠い処まで旅をしたような気持ちです。今いる列島の北の「島」から、横浜、朝鮮半島を経由してロシア極東、中央アジア、サハリン、門司、長崎、島原、天草、水俣八重山、ハワイ、台湾。あなたの本は附箋だらけになりました。あなたの記した言葉を引用しながら、もっともらしい批評を書こうとしましたが、諦めました。「今度は、あなたの旅の話を聞かせていただきましょうか」そう言われちゃ、話さないわけにはいかない、あなたが目の前にいるつもりで、私は私の「散歩」の話をするしかない、いまいる「島」に辿り着くまでの話をするしかないと思い直しました。というのも、いつかのあなたと同じように、私もまた「魂」をどこかに置き忘れてしまったからです。私の頭の上のカミサマはそれを探しに出たまま戻らない。だから、カミサマが魂を連れ戻して来てくれるように毎朝散歩している。毎朝旅立っている。あなたにとってのナミイおばあは、私にとっては「めんこいねえのおばあさん」でした。そんな「散歩」の話しかできませんが、ここでそれを続けようと思っています。それをいつかあなたの「旅」がたどった「島々」に延ばしてつないでいけたらとも思います。そして、切れたところをつないでいけたらと思います。あなたのこんな言葉は毎朝私が散歩に出たときに感じることを表してくれました。

 懐かしい、新しい、誰のものでもない、何もない、わたしたちの、朝日に照らされた豊穣な大地。すっと足を踏み出す。(姜信子『ナミイ! 八重山のおばあの歌物語』164頁)


そうそう、早速、未だ観ぬ映画『ナミイと唄えば 』を注文しました。映画のなかであなたやナミイおばあや水牛老師(?)にも再会できればいいな。