物語
猫の客 猫の客 (河出文庫 ひ 7-1) Le Chat qui venait du ciel [Poche, 2006] 見覚えのある近所の野良猫がある日隣家に飼われた。チビと名づけられ、鈴のついた首輪をはめられ、飼猫になったその猫は、なぜか毎日のように庭を通って「私」の家を訪ねてくるよ…
現な像 写真家の杉本博司さんの『現な像』(新潮社、2008年)に、リチャード・セラ(Richard Serra, b.1939)の巨大な鉄の彫刻にまつわる話が出てくる。2007年の6月にジョナス・メカスがMoMAで一般公開されたリチャード・セラの彫刻展を訪れて、セラと言葉を…
アンリ・カルティエ=ブレッソン写真集成 ブレッソン(Henri Cartier-Bresson, 1908–2004)によるル・クレジオ(Jean-Marie Gustave Le Clézio, 1940–)25歳の時のポートレイトを見て、軽い衝撃を受けた。この繊細そうな青年はちょうど40年後の雪の札幌でまる…
銅色の女の娘たち 次ようなエピソードはどうしても部外者として遠くから眺めるように読むことしかできない。 「それでも痛みが去らない時は、カエルの体位をしたらよい。まず、こんなふうにうずくまるのだ」 祖母は実際にやって見せようと、地面に腹ばいにな…
一方的に語られるばかりで、自ら語る言葉を持たなかった存在が既存の言葉をやりくりして語り始めた時、それまで語ることを独占してきた者は、足元を揺さぶられる。 武人たちの観点からすると、当時は一人の男が複数の妻を持っていたとなるが、記憶を司る女た…
左:ソングライン (series on the move)、右:The Songlines 寝る前によく読んでもらったのは、アーネスト・トンプスン・シートンの『狩られるものの生活(Lives of the Hunted)』に出てくる雌のコヨーテの話だ。 コヨーテの子供ティトーは、いっしょに生ま…
どんな種類の物語でも、植物の名前が登場するとひっかかる悪い癖がある。そこで、作者の意図したストーリー展開や様々な水準の意味作用から逸脱して、いわば意味の陥没地帯を彷徨ったり、そこで宙づり状態になってしまう。それが読書の密かな愉しみでもある…
思うに、記憶を語る人々というのは、過去の出来事をただ過去のこととして語っているのではありません。これまでとは違う未来へと足をふみだすために、今ここで語りおくべき物語として、記憶は語り出されている。そして、語り出されるその記憶に耳を傾けると…
姜信子さんの「旅人」に寄り添う歌に関する一連の「旅」の物語を読みながら、その底流をなすノスタルジー(郷愁)が、先日百歳で亡くなったレヴィ = ストロースが語ったサウダージに限りなく接近するのを感じていた。ウズベキスタンの片田舎にある高麗人の村…
『風の旅人』 38号 - FIND the ROOT 彼岸と此岸 - 時の肖像 姜信子「一引き引いたは、千僧供養」(83頁〜86頁)を読む。これは説教節小栗判官の物語をめぐって、この世の理不尽を超える何か、独りであって独りではないはずの人間と物語の希望、について語っ…
asin:4000221728 asin:4000241559 asin:400430542X そのとき、私の心の中の固く渇いた石のうえに、ひらり、小さな蝶が舞い降りた。そして、羽を大きく開いた。ふわりと飛び立ちました。私を連れて、ふわりと。 どこへ? さあ、わかりません。でも、どこにい…
asin:4000018140 物語、物語って言うけど、分かったようで分かんない。でも、姜信子さんの物語を読んで、その中に登場する男たちや女たちの物語を読んで、ストンと胸の底に落ちるものを感じた。物語はすべて「はじまりの物語」なんだ。それがたとえかつて色…
asin:4087473856 昨日、寒い部屋で、冬のアイルランドを舞台にした藤原新也の長編小説『ディングルの入江』(1998)を姉妹編の写真集『風のフリュート』(asin:4087831175、1998)を脇に置いてじっくりと読んだ。部屋の寒さを忘れた。「小説」と言っても、著…
GATSBYの最新CM「洗顔 変身編」(http://www.gatsby.jp/tv/#/index/cm/collection)が面白い。テレビでは一度見たきり、その後見なくなった。どこかからクレームでもついたのだろうか。未詳。醜男がGATSBYの洗顔フォームで顔を洗うとキムタクに変身するシー…
メメント・モリ(Memento mori)は、ラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」という意味の警句である。日本語では「死を想え」「死を忘れるな」などと訳されることが普通。芸術作品のモチーフとして広く使われ、「自分が死すべきものである」…