宮本常一が撮った昭和の情景



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本書『宮本常一が撮った昭和の情景』(上下巻)は、宮本常一が昭和30年(1955)から昭和55年(1980)まで全国津々浦々を歩いて見て撮った十万枚の写真から約三千枚を選んで編集された大型本の『宮本常一写真・日記集成』(全2巻、別巻1)を底本として再構成してコンパクトにまとめたものである。上巻は昭和30年から昭和39年(1964)まで、下巻は昭和40年(1965)から昭和55年まで。「凡例」によれば、収録点数は約八百五十に圧縮されているが、『集成」未収録の写真も若干加えられた。これで、あの重たくて大きく高価な『集成』が手元になくとも、母体である「十万枚の写真」に接近する身近な拠点ができたようで嬉しい。しかも本としての完成度が高いと感じた。凛とした本の佇まいに、奥付を見たら、ブックデザインは『ページと力』の鈴木一誌とある。なるほど。上巻では田村善次郎さんが「10万枚−疑問の集積、解決の手がかり」と題した宮本常一の写真の背景について、宮本のライフワークの一つだった『絵巻物による日本常民生活絵引』に見られる描かれたものの背景を読む力と宮本の写真の撮り方との関係にまつわる仮説を含めた興味深い解説を、下巻では松山巌さんが「『とうとい』と思う眼、『したしい』と感じる眼」と題した宮本常一の写真そのものの特質に関して、ロラン・バルトの写真論の核心であった「ストゥディウム/プンクトゥム」という見方を援用しながら興味深い解説を書いている。


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