たしかに、不信が渦巻き、大きく揺れ動く世界のなかで、一体信じられるものは何か、どこにあるのかと、手探りしながら問い続けるしかない。皆そんな「問いの島」に生きている。でも、いまここで信を見失っている者たちは、問いの方向を見誤って、自他を巻き込む呪縛に陥りがちだ。それに、無闇に脱出を図ったとしても、次の島で同じことが起こりうる。だから、いまここで信じよう。何を? 人間を。人間? そう、愛されるべき、愛すべき人間。???
姜信子さんは「棄郷の生き方」を選んだ後、栗生楽泉園の詩人・谺雄二さんから手渡された「未来の故郷」を見据えるメッセージを読者に手渡そうとする。
私は七歳でハンセン病になったのだが、両親はその私にたっぷりと愛情を注いでくれた。注がれた愛情が私の血となり肉となった。そりゃ、ここに生きて、いろんなことを経験すれば、人間ってしょうがないなぁ、馬鹿だなぁ、と思いはする。でもね、愛された記憶があるから、けっして人間不信にはならないんだよ。人間を信じる力が、問いつづける力になるんだよ。(「訳者あとがきにかえて」、李清俊著、姜信子訳『あなたたちの天国』438頁〜439頁)
でも、愛(?)された記憶がなければ、どうしたらいいの?
無人島に漂着したロビンソンになって、「愛」を発見するしかない?