忘れた頃にやって来たジョナス・メカスの本。以前何度も言及した村田郁夫訳『どこにもないところからの手紙』(書肆山田、2005年)よりも早く2年前に出版された仏訳本である。後半に英訳も収録されている。表紙写真がとてもいい。
Jonas Mekas Lettres de Nulle Part - Letters From Nowhere, PARIS EXPÉRIMENTAL, 2003
リトアニア語オリジナルはLaiškai iš Niekur, Bartos Lankos(Vilnius), 1997。仏訳者はMarrielle Vitureau。英訳者はLaima Struoginisだが、メカスが校閲したとある(English translation revised by Jonas Mekas)。
TROISIÉME LETTRE(「第三の手紙」)に邦訳には掲載されていない可愛く描かれた意味深なイラストがある。手書きの小さなクレジットが擦れていて判読できない。p.22
「第三の手紙」の冒頭はこう始まる。
Chacun veut seulment avancer. Pourtant je pense qu'aujourd'hui il est bien intelligent de faire marche arrière.(p.19)
英訳該当文はこう。
Everybody wants only to move forwards. But I think that these days it is much wiser to move backwards.(p.131)
そして村田郁夫さんの日本語訳はこう。
「誰もが皆、先に進みたがる。しかし、今は、後戻りするほうが、ずっと賢いと私は思う。」(村田郁夫訳『どこにもないところからの手紙』(31頁)
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この本には、リトアニア語のタイプした本文にタイトルとサインが手書きで加えられた1995年11月12日の日付のある「親愛なる読者に」という最後の手紙が転載されている。そのサインに惹かれた。
手書きのサインの最後に「文字」に限りなく近い花のドローイングが。これは、「365日映画」で毎日映画の最後に映し出されたカラーの絵と同じだった。
ずっと、これは何の花だろう、どうしてだろうと思っていた。いつかもしメカスに会うことがあったら、その花の話をしたいと思っている。こんな、既成の「花言葉」とかじゃなくて、名も知れぬかもしれない小さな花の絵を言葉そのもののように添える仕草に、変かもしれないが、優れたデザインセンスを感じてしまう。