生き延びる理由


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 記憶というものを、私たちはなめてかかっていると思う。五十年前とは、かなり多くの人びとにとって、昨日なのだ。(辺見庸「ある日あの記憶を殺しに」、『もの食う人びと』角川文庫、1994年、335頁)


人生が特異な時間の経過であり、掛け替えのない記憶であるとすれば、悪夢のような凄惨な記憶を背負わされた者は人生を断つことでしか、生きる希望を叶えることはできないという逆説が生まれる。それでもなお、生き延びる理由はどこにあるのか? ない、と言い切っても誰もそれを非難することはできない場所で、それでもなお、生きて下さいと涙ながらに懇願する者の存在こそが生きる希望であり、生き延びる理由であるのかも知れない。