私のように手持ちの画像データ数が数千枚のオーダーなら、サムネイルで数十枚ずつ一覧するか、全部をスライドショーで見ることがそのまま画像の「受動型検索」になるが、数万枚、数十万枚、そして美崎薫さんのように百万枚のオーダーになれば、それは非常に困難である。(美崎さんの場合はその困難を超人的努力で克服しているが、それは常人には無理である。)
そこで、画像にタグ(分類名、カテゴリー名、記述)をつけて、「能動型検索」ができるようにしておくと、のちのち役に立つ。数千の画像でも、そうすることで、検索→想起のサイクルが高速化し、「発見」の機会も増える。
ところが、問題なのは、どんな「タグ」をつけたらよいかということ。これが悩ましい。命名の悩ましさは、誕生する我が子の命名の際にも経験することだが、もしかしたら、それは人類誕生とともに始まる最も始源的問題でもあるような気がしてきた。とにかく、名前(タグ)の付け方次第で、検索の善し悪しは決まる。
もちろん、自分がどんな名前を付けたかは、別に記録しておかなければならない。それは「シソーラス」(類義語辞典)とでも呼べるもので、要するに、相手にしている世界を全体から細部にいたるまでできるだけもれなく押さえられるような分類(概念、カテゴリー)の体系を表す「辞書」みたいなもの。だから、ただ名前をつけりゃいいってもんじゃなくて、他のものとの間の意味の関係を考えて付けなきゃ、後で使い物にならないわけ。
テキストでも画像でも、「テキスト入力」による検索とは、能動型検索であり、どんな言葉をどう組み合わせて入力すべきかを考えなきゃいけない。これは実はかなり高度な検索であり、ネット上の検索エンジンを使う場合のように、どんなタグ付けをされているかが見通せない時には、あり得る「タグ付け」を想像しながら、一種の賭けのように行う面さえある。
以下は、私の画像検索のための試行錯誤報告。
私は毎朝散歩で撮っている写真にどんなファイル名(タグ)をつけるか、毎日悩む。もちろん、デジタルカメラで撮影した写真には「撮影年月日時刻」が自動的にファイル名になる、つまりタグ付けされるので、iPhoto(Macの写真管理ソフト)やSmartCalendarで時系列という最も普遍的な世界認識のための座標上で、スライドショーやパラパラめくり的なことはできる。これは私の考えでは、限りなく受動的な能動型検索である。
私はいろんなカテゴリーを毎日いろいろ試している。上位のカテゴリーは人工物[af]/自然物[nt]だが、それとは別系列の「廃墟[ru](ruinから)」もかなり上位に位置している。そして「時(とき)の経過[tm]」は今のところ最上位のような気がしている。しかし、はっきりしているわけではない。特に「時間」に関しては、カレンダー的周期的時間には回収されつくさない時間とは何かを巡る美崎さんとの議論の中で、変化する可能性がある。
しかし、そういう上位のカテゴリーだけを写真のファイル名にしても、検索する際には大雑把すぎるので、役に立たない。実際にはもっと具体的な名前をつけることになる。先週かなり夢中になって撮影した各種マンホールの蓋などは、例えば、[ug_manhole_ntt.jpg]のようなファイル名にする。これは「NTTの地下送電線への入り口の蓋」を意味する。[ug]は[underground](地下)の意味で、地下空間への関心を示すタグ(カテゴリー)である。地上の人工物一般には[af](artificialより)を頭に付けるのだが、マンホールの蓋だって人工物であることに変わりはないので、ファイル名の中に[af]も入れることになったりする。植物には[pl](plantより)をつける。
また、悩ましいのは「対象物」[ob](objectより)の位置づけである。認知されるものすべては対象であるのだが、そんなカテゴリーは検索の用をなさないので、今のところ、被写体がかなり明確に絞り込まれた対象で、密かに「フレーミング・アート[fa]」とか「ズーミング・アート[za]」と呼んでいる写真に[ob]を付ける。なお、最近増え始めた新聞や雑誌の記事などの写真(テキスト画像)には[txt]を付けている。等々。
つまり、後の検索のことをある程度想定しながら、タグ付けしているのだが、いったん付けられたタグは決して固定的ではなく、毎日のように変更、修正され続ける。タグの付け方によって、関係(リンク)が増えるようにしているわけである。こういう遊びのような試みは、個人的には写真を見直す、追体験することに大変役には立つのだが、一般論としては、やはり写真に名前を付けることは不可能である、物に名前を付けることは不可能であるということを、一生懸命裏側から証明しようとしていることになるような気もしている。無駄なことをするな、という声が聞こえないでもない。
テキストファイルの場合は短い断片的なメモなどは文章の冒頭部分が自動的にファイル名になるようにし、ある程度まとまった文章にはブログで設計しているカテゴリー(「思想」、「技術」、「Web 2.0」等々)とタイトルが自動的にファイル名になるようにしている。
ブログに投ずる文章はすべて、あらかじめテキストエディタで作成するが、例えば、この文章のテキストファイルは「技術思想命名は悩ましい:検索の裏側」と命名される。