人生

誰にもみちびかれず、「何もしないこと」を学んできた

あなたは覚えているだろうか。あのしばれる冬の夜、雪の上に積まれた薪木に一緒に火を熾したことを。奄美やブラジルの精霊が現れたあの夜のことを。別れ際にあなたは言った。「もう会わないだろう」と。あれから何年経つだろう。あなたの旅の消息は途絶えが…

問いの島、無人島

たしかに、不信が渦巻き、大きく揺れ動く世界のなかで、一体信じられるものは何か、どこにあるのかと、手探りしながら問い続けるしかない。皆そんな「問いの島」に生きている。でも、いまここで信を見失っている者たちは、問いの方向を見誤って、自他を巻き…

夢の大道

大道商人のアジア作者: 和賀正樹出版社/メーカー: 小学館発売日: 2003/07メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 和賀正樹さんは日本列島からはほとんど消えてしまった「大道商人」を捜し求めて、90年代後半から00年代前半にかけて、アジア各国…

車椅子の人形使いソン・セルゲイ

追放の高麗人(コリョサラム)―「天然の美」と百年の記憶作者: 姜信子,アンビクトル出版社/メーカー: 石風社発売日: 2002/05メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (8件) を見る 車椅子の人形使いソン・セルゲイ。かつて極東ソ連から遥か遠く中…

美しく復讐すること:金石範の場合

ジョナス・メカスの場合だけでなく、自分を含めて誰にとっても、生きることは失われた故郷への遠回りの旅、決してそこには辿り着けない旅だという思いに随分前から取り憑かれている。最近何本かの関心の線が交差したあたりに、済州島四・三事件、そして金石…

悲しみの自由の喜び

金石範“火山島”小説世界を語る!―済州島四・三事件/在日と日本人/政治と文学をめぐる物語作者: 金石範,安達史人,内田亜里,児玉幹夫出版社/メーカー: 右文書院発売日: 2010/04メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る 一見普通に生活しているように…

楮佐古晶章(かじさこあきのり)さんに会う

来日したばかりの写真家・楮佐古晶章(かじさこあきのり)さん(公式サイト「南米漂流」)に会うことができた。昨日、成田から札幌に直行したという。サンパウロからワシントン経由で30時間。さすがにやや疲れた様子だった。明日には生まれ故郷の高知へ発つ…

罪と罰、視線が絡み合う先に、サウダージ

地球の裏側からある男がやって来る。この世に生まれてきたことを原罪のように呪う自分を自分の中に飼い続けてきた男だ。そんな悪魔と消耗戦を戦っている男だ。宿命としか言いようがない。本当はどこだって構わない。所詮、心次第。どこだって同じだ。結局は…

人生に吹く風

故人の誕生日を祝う

AUG 21 Birthday of jazz trumpeter Art Farmer (August 21, 1928 - 1999)… Art Farmer Quartet: I Waited For You - from Sing Me Softly of the Blues (Atlantic Records, 1965) 昨日はアート・ファーマーの誕生日でした。tumblrのi12bentさんの投稿で一日…

ジョナス・メカスの「ピース」公開

My Friends:I have as of now c. 2000 hours of video footage. It goes back to 1988. I decided to share some of it with you. This new series will be called PIECES. You can take a look at these pieces, which I will be adding now and then, by c…

「海で死ねたら本望だ」(中村とみ)

海女、中村とみさん(尾崎たまきオフィシャルサイト) 「海で死ねたら本望だ」が口癖だったという海女の中村とみさんが、去る6月1日に、その望み通り海で亡くなっていた。今朝の朝日新聞の小さな記事「五線譜」で知った。享年78歳。中村とみさんは、三重県志…

曼珠沙華

高群逸枝(たかむれいつえ, 1894−1964) 当時24歳の高群逸枝の四国遍路は一人旅ではなかった。当時73歳の伊藤宮次という老人に半ば庇護されての旅だった。まるで宮次翁に弘法大師が乗り移っての「同行二人(どうぎょうににん)」のようだった。宮次翁の話を…

ジョナス・メカスの<故郷への旅>

いったん故郷を追われた者は二度と同じ場処には戻れない。故郷を追われた記憶が故郷をかつての故郷ではなくしてしまうからだ。ジョナス・メカスは死ぬまで終わらない<故郷への旅>を続けるのだと思う。地上のあちらこちらに新しい故郷を、一種のアジールを…

死ぬほど生きる

悲しみのエナジー 本書の「第一章 純潔の墓標------原口統三」と「第二章 友よ、私が死んだからとて------長澤延子」を読む。南無さんの「記憶の復讐」や、海さんの「最期の歌」のことを思った。 詩人である長澤延子とか(「南無の日記」2010-07-04) 記憶と…

アブラハムかオデュッセウスか、ふたたび

プリーモ・レーヴィ(Primo Michele Levi, July 31, 1919 – April 11, 1987) ジョナス・メカス(Jonas Mekas, born December 24, 1922) アウシュヴィッツから生還し帰郷を果たしたにも関わらず自殺したとされるプリーモ・レーヴィの諸著作を読みながら、帰…

奈落のイメージ

辺見庸は「奈落」と題したエッセイ(『永遠の不服従のために』asin:4062750856と『言葉と死』asin:4620317993に収められている)の冒頭に次のようなガストン・バシュラール(Gaston Bachelard, 1884–1962)の言葉を引用している。 奈落は眼では見られない。…

毎日コツコツと更新するサイトや人生

京都で株式会社シーズを経営する旧知の西垣孝浩さんから久しぶりに便りがあった。シーズが運営する印刷通販サイト「suprint」(スプリント)を紹介するハートの籠った文面からは彼の温かい人柄が感じられて、懐かしさのあまり、彼のブログやツイッターを訪ね…

追悼、志村啓子さん

プリーモ・レーヴィ(Primo Levi, 1919–1987)の本を読みたくなって、図書館でまとめて5冊借りた日、志村啓子さんの訃報に接した。絶句した。リゴーニ・ステルン(Mario Rigoni Stern, 1921–2008)の諸著作を中心とした渾身の訳業を通じて、心の森の奥深く…

痛みと恥

自他の区別から出発するなら、私は他人の痛みを自分の痛みとして痛むことはできない。もしかしたら、自分の痛みさえ十分に痛むことを忘れてかけているのかもしれないとも思う。しかし、誰のものとも言えない深く鈍い痛みから出発するとしたらどうだろう? き…

運ぶべきものではない石

荷馬車、大連にて。 生まれてはじめて大陸に渡り、北から南へ、そして南から北へと、中国の三都市、大連、広州、天津を巡った。できれば田舎に行って、現役の天秤棒が見たかったが、叶わなかった。中国に発つ前に読んだ水上勉(1919–2004)の天秤棒の話(『…

闇は闇ではない、瞽女の人生

瞽女―盲目の旅芸人 (1972年)、越後つついし親不知・はなれ瞽女おりん (新潮文庫) なぜ瞽女に惹かれるのだろう。その答えに近づけるような気がしたのかもしれない。研究書ではない、二冊に吸い寄せられるようにして読んでいた。「よるべない闇の人生」(水上…

2010年6月2日の朝の机上

朝日新聞朝刊。合掌。 読み返していた大野一雄の世界 Kazuo Ohno's World: From Without & Within 石狩川河口から望来の丘へ2(2010年05月05日) 読みかけの三冊 死者の書・口ぶえ (岩波文庫) 物質的恍惚 (岩波文庫) 「芸能と差別」の深層―三国連太郎・沖浦…

風と空白

『風の旅人』 40号 - FIND the ROOT 彼岸と此岸 - 二つの時間/境の旅 竹富島には行ったことがないけど、管啓次郎さんの「風の経験」の話を身近に感じる。 風には色がなく、見えるのは事物に反射する光だけ。しかし風とは空気の動きに留まるものではなく、そ…

ジョナス・メカスの宣言@クラクワ

A manifesto from Krakow (recorded by Giuseppe Zevola) しばらく音沙汰なしだなと思っていたら、ジョナス・メカスはかつてのポーランド王国の首都クラクワにいた。メカスは50周年を迎えたクラクワ映画祭で「金龍賞(the Dragon of Dragons award)」を受賞…

幸せは花びらの中の一粒の朝露のよう

A Felicidade - Antônio Carlos Jobim and Vinícius de Moraes, October 18 in 1978 in Milan, Italy A felicidade é como a gota de orvalho Numa pétala de flor アー/フェリシダーヂ/コム/ア/ゴータ ヂ/オッバリュ/ヌマー/ペータラ/ヂ/フローッ …

visionarさんの螺旋歌に寄せて

深き淵よりの嘆息(visionar 2010.05.05 Wed) 螺旋歌って、上昇するイメージでとらえていたけど、やっぱり落下だよなあ、と思いました。墜落、失墜、、。でもただ落ちたり、落としたりするのではなくて、自分や自分の何かが、落ち葉のように、せめてくるく…

故郷と沈黙 Home and Silence

asin:0962818100 本書はジョナス・メカスの1944年から1955年までの日記を集成したものである。終戦直前のナチスの強制収容所時代、終戦直後の難民キャンプ時代、そして1949年にニューヨークに渡ってからの極貧の時代の日記である。本書は1955年(メカス32歳…

精神の野生:ソローの場合

ソロー手書きの地図、部分(『コンコード川とメリマック川の一週間』398頁より) コンコード川とメリマック川の地図、部分(『コンコード川とメリマック川の一週間』3頁より) The Concord and Merrimack rivers: detail from Nathan Hale, Map of New Engla…

別れ。塚本さんを偲ぶ

私にとっては散歩とその延長のような旅やブログや本などで出会う人たちはこちら側のいわば仲間である。散歩は私にとって意識と生活を根底から変える革命であり続けている。だから、散歩でしか会わない人という言い方はしない。大げさに聞こえるかもしれない…