問いの島、無人島

たしかに、不信が渦巻き、大きく揺れ動く世界のなかで、一体信じられるものは何か、どこにあるのかと、手探りしながら問い続けるしかない。皆そんな「問いの島」に生きている。でも、いまここで信を見失っている者たちは、問いの方向を見誤って、自他を巻き…

夢の大道

大道商人のアジア作者: 和賀正樹出版社/メーカー: 小学館発売日: 2003/07メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 和賀正樹さんは日本列島からはほとんど消えてしまった「大道商人」を捜し求めて、90年代後半から00年代前半にかけて、アジア各国…

舌の記憶を繋げる旅、‘tonguelogue’

被差別の食卓 (新潮新書)作者: 上原善広出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2005/06/16メディア: 新書購入: 15人 クリック: 158回この商品を含むブログ (86件) を見る 地図にはのっていない大阪府南部の更池(さらいけ)という被差別部落に生まれ育った上原善広…

心の内のクルディスタン:写真家松浦範子の旅

クルディスタンを訪ねて―トルコに暮らす国なき民作者: 松浦範子出版社/メーカー: 新泉社発売日: 2003/03/15メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 4回この商品を含むブログ (4件) を見る クルド人のまち―イランに暮らす国なき民作者: 松浦範子出版社/メーカー…

柳瀬正夢、伊藤武雄、原口統三の思い出

餃子ロード作者: 甲斐大策出版社/メーカー: 石風社発売日: 1998/11メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログ (4件) を見る こんな面白い本が絶版のままとは勿体ない。20世紀が間もなく終る頃、甲斐大策は次のように皮肉たっぷりに書いた。 餃(子…

追放の高麗人(コリョサラム)の運命

『流転〜追放の高麗人と日本のメロディー〜』(2003年熊本放送) 高麗人(コリョサラム)とは、1937年に「日本人と見分けがつかない」ことを危険視され、スターリンによって中央アジアの地に追放された約20万人の極東ソ連の朝鮮民族のことである。私は姜信子…

曼珠沙華

高群逸枝(たかむれいつえ, 1894−1964) 当時24歳の高群逸枝の四国遍路は一人旅ではなかった。当時73歳の伊藤宮次という老人に半ば庇護されての旅だった。まるで宮次翁に弘法大師が乗り移っての「同行二人(どうぎょうににん)」のようだった。宮次翁の話を…

佐渡へのオマージュ

ムクゲ(木槿, Rose of Sharon, Hibiscus syriacus) ムクゲの花の 凛と咲く 夏の日 いのちを 削って 過ぎし日を 綴れ さすらいの旅の果て 蒼穹(あおぞら)の記憶を辿り ムクゲの花の うれしい夏の日 ムクゲの花の 美しい夏の日 村崎修二「猿曵き佐渡をゆく…

中国語瞥見

「船員革回商品」? 歩道でブランド名の入ったバッグや靴やベルトなどが売られていた。「革回」は革鞄を意味するようだが、なぜ「船員」なのか? レストランの伝票。「食品记录咭」(食品記録カード) 「公安」は警察、「刑事勘査」は犯罪捜査。 「傘袋机」…

広州の街路樹と路地

ブーゲンビリア (筏葛, Bougainvilleae, Bougainvillea glabra) サルスベリ(百日紅, Crepe myrtle, Lagerstroemia indica) インドソケイ(印度素馨, Plumeria, Pagoda Tree and Temple Tree, Plumeria rubra) 大連から空路二千五百キロほど南下して広州…

天津の暑い夜

広州から空路二千五百キロ余り戻るように北上して天津に行く。天津は大連とほぼ同緯度にある。北京までは京津高速を使えば二時間足らず、百数十キロの距離で、「通勤圏内」であると聞いた。広州に比べれば湿度は低かったが気温は三十℃を超え暑かった。渤海湾…

大連ふたたび

天津から渤海湾をひとっ飛びして大連に戻った。一時間かからない。距離は約五百キロ。ちょうど東京大阪間の距離感である。一週間ぶりに戻った大連では空き時間に歴史的建造物に囲まれた中山広場まで散歩した。往きは表通りの人民路を歩き、帰りは横道に入り…

大連のプラタナス

人民路(Lenmin Lue)のプラタナス並木 明泽街(Ming Ze Jie)の風景 大連の港 アカシアで有名な大連だが、間近に見ることはできなかった。旅順口へ向かう高速道路を走るタクシーの窓越しに白い花をつけたアカシアの林を遠望することができただけだった。そ…

大連にて

旅順口の海岸の風景。沿海ではアワビによる真珠の養殖が行われていると聞いた。 大連で宿泊したホテル前の歩道で乞食する翁。1元恵む。 今から二十年余り前に、ジル・ラプージュ『赤道地帯』(弘文堂、1988年、asin:4335950209)の「訳者あとがき」の中で管…

風と空白

『風の旅人』 40号 - FIND the ROOT 彼岸と此岸 - 二つの時間/境の旅 竹富島には行ったことがないけど、管啓次郎さんの「風の経験」の話を身近に感じる。 風には色がなく、見えるのは事物に反射する光だけ。しかし風とは空気の動きに留まるものではなく、そ…

不便で素敵な場所へ

asin:4862760791 便利で詰まらない場所が増えた。不便で素敵な場所に行きたい。そんな場所で死にたい。ずっとそう思っていた。そしたら、大好きな色鉛筆の絵描きの下田昌克がよく知らない田崎健太と「とびきり素敵で不便な旅」をした記録が本になっていた。…

精神の野生:ソローの場合

ソロー手書きの地図、部分(『コンコード川とメリマック川の一週間』398頁より) コンコード川とメリマック川の地図、部分(『コンコード川とメリマック川の一週間』3頁より) The Concord and Merrimack rivers: detail from Nathan Hale, Map of New Engla…

地霊と言霊、地図と辞典、ソローと松浦武四郎

asin:4061591339 本書はソロー(Henry David Thoreau, 1817–1862)がメイン州の森林地帯の奥地を三回(1846, 1853, 1857)にわたって従弟や友人と旅しながら、野生(自然)と野蛮(文明)との違い、自然と人間との関わりのあるべき姿、などに関する思索を深…

ソローと宮本常一

asin:4875022271 しばしば「森の哲人」と呼ばれるソローは、実は「海の哲人」あるいは「海辺の哲人」でもあった。本書『コッド岬』はその証しである。*1カバーの表題の右上に小さく「海辺の生活」とある。原書には見られない余計な配慮のようにも思われるが…

旅と言葉6:本物のパタゴニア・エキスプレス

asin:4336039569 ルイス・セプルベダ(Luis Sepulveda, 1949–)*1 最近は夜な夜な「地の果て」、「世界の果て」パタゴニアを、マゼラン以来西洋人の想像力をかきたててきたというパタゴニア、ある意味で西洋人の想像力の果て、限界をうろついている。デスク…

旅と言葉5:パタゴニア的な死

W. H. Hudson by MICHAEL RENTON, 1984 ボストン南駅から原則的に汽車を乗り次いで延々数か月かかってようやくパタゴニアに着いたポール・セルーは、初めてそこに立ち、目の当たりにするパタゴニアの荒涼たる風景のなかで、一種の宙づり感覚に襲われたことを…

旅と言葉4:翻訳、あるいは、世界というやすりを使って、自分を削ること

Nicolas Bouvier: Oeuvres, col. Quatro, Éd. Gallimard, 2004 asin:462207298X asin:4794205759 2004年にガリマール社から出た新しい文学叢書クワルト版(Quarto)の1400頁余りのニコラ・ブーヴィエ作品集には、彼が生前刊行したほとんどすべての作品が収め…

旅と言葉3

Paul Theroux, el rostro de la felicidad. Por Daniel Mordzinski*1 asin:4062010755 asin:4560043159 asin:4839700966 旅について穿った見方をしていたポール・セルー(Paul Edward Theroux, born April 10, 1941)は、「実験旅行」と称して、ボストン市郊…

旅と言葉

asin:4560042969 asin:4087465004 ヴェルナー・ヘルツォークの旅に久しぶりに付き合う。何年ぶりだろう。何度目だろう。彼と一緒にミュンヘンを発って、徒歩で、パリに向かう。ミュンヘンからパリまで歩くというスケールとしては小さな旅だ。だが、一週間た…

旅と言葉2

asin:4560042969 「全ての装備を知恵に置き換えること」(イヴォン・シュイナード&石川直樹)と言うからには、単なる知識や情報を伝える一般的な言葉を、知恵を物語る特異な言葉に置き換える努力も含まれるはずだ。言葉は原初的な「装備」であり、今や言葉…

何が必要でないかを考える必要

asin:4087465004 本書の冒頭には、表題にもなっている「全ての装備を知恵に置き換えること」と題された、パタゴニアの創始者イヴォン・シュイナード(Yvon Chouinard, born 1938)との出会いを綴ったエッセイが「まえがき」の代わりのように置かれている。こ…

アフガニスタン哀歌(A Lament for Afghanistan)

asin:0195030672The road to Oxiana - Google ブックス 私は評論家としてではなく、一人の心酔者として書いている。この本が私にとっての「聖典」となってから久しい。批判などできるはずがない。十五歳のときに手に入れた本は、中央アジアへの四度の旅にも…

風の靴を履いた男

asin:4047913243 1986年の夏にブルース・チャトウィンは「奇病」*1に苦しみ、死を覚悟して、『ソングライン』(asin:4862760481)を完成させた。その後一時的に回復の兆しを見せたが、1989年1月18日に亡くなった。その間、彼は遺作となった本の編纂を自らの…

日本に行く歌、太平洋のソングライン

チャトウィンによる砂漠の足跡の写真(WINDING PATHS, p.23, asin:0224060503) ブルース・チャトウィン(Charles Bruce Chatwin, 1940–1989)は1986年の夏、骨髄が冒される奇病をわずらい、悪寒に震えながらも、「そこまでやり遂げれば、思い残すことはない…

チャトウィンの歩く哲学

ドイツの映画監督ヴェルナー・ヘルツォーク(Werner Herzog, 1942年生まれ)との出会いを綴った散文のなかで、ブルース・チャトウィンは二人が共有する<歩くこと(walking)>にまつわる信念あるいは哲学について次のように語っている。 そして(ヘルツォー…