言語

反古で作ったエミリー・ディキンソン全詩語彙集

The Lexicon of the Complete Poems of Emily Dickinson by myself, 2004 古い書類の中から、滞米中の2004年の夏に個人的な喜びのために反古で作ったエミリー・ディキンソン(Emily Elizabeth Dickinson, 1830–1886)という19世紀のアメリカの詩人の全詩の語…

オンコの語源と学名をめぐって

イチイ(一位, Japanese yew, Taxus cuspidata)、俗称オンコ。 子どもの頃に「オンコ」と聞き覚えた、秋に赤い実、食べると甘い実をつける木の和名は「イチイ(一位)」であることを知ったのはいつの頃だったか、思い出せない。その「オンコ」の語源は、て…

ルテニアのアンディ・ウォーホル現代美術館

明日、広場で―ヨーロッパ1989‐1994 (移動鏡シリーズ) ベルリンの壁が崩壊し(1989年)、ソ連邦が解体した(1991年)、正に激動の時代に東欧を旅した記録、17年前に出た港千尋さんの東欧写真集『明日、広場で ヨーロッパ1989–1994』に収録された紀行文を読ん…

δ(d) / λ(l)の差異

昨日まで、英語のOdysseusはギリシャ系の語彙で、Ulyssesはラテン系の語彙だと私は思い込んでいた。英語のUlyssesはラテン語のUlissesの直系である。しかし、ラテン語のUlissesの素性はラテン系ではなくあくまでギリシャ系なのだということに気づかなかった…

オデュッセウスかユリシーズか

ギリシャ語「Το Βλέμμα του Οδυσσέα」 日本語「ユリシーズの瞳」 英語「Ulysses' Gaze」 ドイツ語「Der Blick des Odysseus」 フランス語「Le regard d'Ulysse」 イタリア語「Lo Sguardo di Ulisse」 スペイン語「La mirada de Ulises」 アンゲロプロス監督…

Scriabin's Key-Colour Scheme

古いファイルを整理していたら、スクリャービン(1872–1915)関連の古いコピーが出て来た。 共感覚(synesthesia)への関心から集めた資料の一部のようだったが、よく思い出せない。その中にスクリャービンの鍵盤配色図( Scriabin's Key-Colour Scheme)が…

名前の翻訳

井上究一郎訳、ジャン・グルニエ『孤島』(筑摩書房、1991年)13頁、asin:4480013504 「ノラの声」(2011年11月27日)で引用した井上究一郎が翻訳したジャン・グルニエの『孤島』に収められた「猫のムールー」の一節に端を発する言語(の崩壊)と翻訳(の不…

アルザスからの通信:名前の遠近法

昨夜、マルグリット・デュラスの「塩漬けキャベツ」について、詰めが甘い、脇も甘い書き方をしたら、ストラスブールに住む小島剛一さんからすかさず関連する原語とアルザス料理に関して大変ありがたい応答が電子メールで届いた。小島さんによれば、マルグリ…

エールキング社のロックエール・ウィンドウ

ケンタッキーフライドチキンの回転窓の米国特許表示 久しぶりにケンタッキーフライドチキンでドライブスルーした。代金を払い商品を受け取るための、あの回転扉ならぬ回転窓が好きだ。店の内と外を回転してつなぐ中間的な空間の設計には一種の詩情、ポエジー…

水際の旅、小島剛一さんと共に

「闘う言語学者」こと小島剛一さん、襟裳岬にて。 先週のこと、昨年秋に交わした約束通り、ストラスブール在住の言語学者、小島剛一さんが北海道にやって来た。新千歳空港の到着ロビーで初対面の小島さんを出迎え、挨拶もそこそこに、小雨模様の中、道央自動…

闘う言語学者、小島剛一

トルコのもう一つの顔 (中公新書)作者: 小島剛一出版社/メーカー: 中央公論社発売日: 1991/02/01メディア: 新書購入: 14人 クリック: 159回この商品を含むブログ (49件) を見る 近藤さん(id:CUSCUS)の強い勧めで小島剛一著『トルコのもう一つの顔』(中公…

白いお米の記憶に故郷が

ソウル―ベルリン 玉突き書簡―境界線上の対話作者: 徐京植,多和田葉子出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2008/04/16メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (11件) を見る 生い立ちが違えば、同じ言葉に背負わされた意味も違ってくる。例えば、…

ナルほど2

原始日本語のおもかげ (平凡社新書)作者: 木村紀子出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2009/08/01メディア: 新書購入: 2人 クリック: 10回この商品を含むブログ (15件) を見るヤマトコトバの考古学作者: 木村紀子出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2009/07/01メデ…

中国語瞥見

「船員革回商品」? 歩道でブランド名の入ったバッグや靴やベルトなどが売られていた。「革回」は革鞄を意味するようだが、なぜ「船員」なのか? レストランの伝票。「食品记录咭」(食品記録カード) 「公安」は警察、「刑事勘査」は犯罪捜査。 「傘袋机」…

『コンコード川とメリマック川の一週間』に登場するその他の動物名一覧表

asin:4880593540 『コンコード川とメリマック川の一週間』に登場する植物名ほぼすべて一覧表(2010年04月29日) 『コンコード川とメリマック川の一週間』に登場する鳥類名と魚類名の一覧表(2010年05月02日) 植物名一覧表、鳥類名と魚類名の一覧表に続けて…

『コンコード川とメリマック川の一週間』に登場する鳥類名と魚類名の一覧表

asin:4880593540 『コンコード川とメリマック川の一週間』に登場する植物名ほぼすべて一覧表(2010年04月29日) 植物名一覧表に続いて、同じ趣旨で鳥類名と魚類名の一覧表を載せます。 『コンコード川とメリマック川の一週間』(Henry David Thoreau, A Week…

『コンコード川とメリマック川の一週間』に登場する植物名ほぼすべて一覧表

asin:4880593540 本書には数の多い順番からいうと、100種余りの植物、各30種余りの魚貝類と鳥類、20種余りの哺乳類、10種余りの昆虫類、そしてそれより少ない両生類、爬虫類、環形動物などが登場します。本書を読むことは私にとっては見知らぬものも少なくな…

異国語の響き:メカスの日記から

svetainė lietuviams…(for my Lithuanian friends) Jono Meko skersvėjo atidarymas:(The inauguration of Jonas Mekas Crosswinds Street in Užupis, Vilnius) A conversation between Leonidas Donskis and myself (in Lithuanian) on the Vilnius TV prog…

地霊と言霊、地図と辞典、ソローと松浦武四郎

asin:4061591339 本書はソロー(Henry David Thoreau, 1817–1862)がメイン州の森林地帯の奥地を三回(1846, 1853, 1857)にわたって従弟や友人と旅しながら、野生(自然)と野蛮(文明)との違い、自然と人間との関わりのあるべき姿、などに関する思索を深…

ソローの葉的世界観、言語の原風景

葉(leaf) 前頭葉(Frontal lobe) ソローの『ウォールデン』の終章「春」のなかの一節に、日本語では注意を向けにくい、「葉」をめぐる、私にとっては非常に興味深い、ある世界観、「葉的世界観」が語られている。 地球でも、動物のからだでも、内部を見れ…

Sainte Terre, Sainte-Terrer, Saunterer

ソローの遺作“Walking”の邦訳で、大西直樹氏が「そぞろ歩き」と訳し、故木村晴子氏が「散策」と訳した英語 ‘sauntering’ は、ソローによれば、聖地を意味するフランス語 ‘Sainte Terre’ に由来するという。そんな語源説を述べるくだりは原文ではどうなってい…

椿(ツバキ)と동백(トンベック, dongbaeg)

asin:4896944526 『植物和名の語源探究』(八坂書房、2000年)のなかで、深津正(ふかつただし)氏は各種のツバキ語源説を検討した結果、與謝野鉄幹、司馬遼太郎、そして中島利一郎の主張を挙げ、さらに自身の体験も踏まえて、ツバキの語源は朝鮮語であると…

悲しみを聴く石

asin:456009005X 『灰と土』(asin:4900997080)につづいて、詩人関口涼子さんの邦訳でアフガニスタン出身の亡命作家アティーク・ラヒーミーの『悲しみを聴く石』を読んだ。静謐な佇まいの本だ。昨年(2009年10月)、白水社の「エクス・リブリス(Ex Libris…

ナルほど

asin:4582854826 印欧語が存在と所有を表す動詞を根幹とする言語だとすれば、日本語は存在と生成、とりわけ生成を表す動詞を根幹とする言語であるらしい。たしかに、「ナル」を使わなければ、まともに日本語で話したり書いたりすることはできなく「なる」。…

大変すてきな山の名前、根本の声

藻岩山(Mt. Moiwa)と深紅の薔薇 藤原新也『西蔵放浪』の中に、「大変すてきな山の名前」の話が出てくる。赤い旗に生き神様ともども故郷を追われ、まるで「出エジプト記」を彷彿とさせる過酷な放浪を余儀なくされたチベット人の一団にとって天国に通じる霊…

沈黙の通訳

千野栄一著『プラハの古本屋』(asin:446921096X)の冒頭の一文「沈黙の通訳」(5頁〜15頁)では、チェコ語を知らない日本人と日本語はもちろん英語も知らないチェコ人との間の言語の壁を超えるコミュニケーションの生き生きとした姿が、通訳や翻訳に対する…

バドワイザーが仏陀につながる

ビールと古本のプラハ (白水Uブックス―エッセイの小径)作者: 千野栄一出版社/メーカー: 白水社発売日: 1997/08メディア: 新書購入: 4人 クリック: 30回この商品を含むブログ (27件) を見る 千野栄一著『ビールと古本のプラハ』には、日本でもよく知られてい…

黄金の虎 U Zlatého Tygra にいる気分

話は少し前後します。 一昨日、南陀楼綾繁(ナンダロウアヤシゲ)さん(id:kawasusu)推薦の千野栄一著『ビールと古本とプラハ』が届いて、すぐに読み始めたら、ビールが飲みたくてたまらなくなって、夕方近所のコンビニに走った。できれば、中心街のライオ…

フィオナ・バナー:言葉なき文字

昨日の「フィオナ・バナー:アルファベットと格闘する女」の続き。 The Bastard Word, 2006-07 The Bastard Punctuation, 2006-07 Every Word Unmade, 2007 Bones, 2007 フィオナ・バナー(Fiona Banner)は Every Word Unmade, 2007 に自ら次のような興味深…

翻訳不可能

レヴィ =ストロース+今福龍太による『サンパウロへのサウダージ』(asin:462207351X)は、「サウダージ」という一語に負荷されたブラジル人の体験とポルトガル語の全域、全貌にかつてない光を当てたように思われる。この一冊によって、「サウダージ」の一語…