思想

筒状の時の穴

asin:462207351X 『サンパウロへのサウダージ』は、サンパウロでもない、東京でもない、日本の一地方都市の郊外に近い川沿いの古い街区を毎朝散歩する私の体験にもいわれなきサウダージの感覚を喚び起こしていた。昨日のエントリーの引用では敢えて省いた箇…

翻訳不可能

レヴィ =ストロース+今福龍太による『サンパウロへのサウダージ』(asin:462207351X)は、「サウダージ」という一語に負荷されたブラジル人の体験とポルトガル語の全域、全貌にかつてない光を当てたように思われる。この一冊によって、「サウダージ」の一語…

時間の捕虜

サンパウロへのサウダージ作者: クロード・レヴィ=ストロース,今福龍太出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2008/11/21メディア: 単行本 クリック: 5回この商品を含むブログ (11件) を見る 65年の時を隔てて、レヴィ = ストロースと今福龍太が歩いたサンパウ…

My Foolish Heart

ここから逃れようとして......、結局ここに帰ってくる。でも、帰ってきたここは以前のこことは違う。 まいふぅりっしゅはぁと(『南無の日記』2008-11-20)

ミツバチの飛び去る速度、サウダージ

レヴィ=ストロースの庭作者: 港千尋出版社/メーカー: エヌティティ出版発売日: 2008/11/17メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 9回この商品を含むブログ (21件) を見る サンパウロへのサウダージ作者: クロード・レヴィ=ストロース,今福龍太出版社/メーカー…

テラ・プラタ(黒土)、数万年の時の露光

レヴィ=ストロースの庭作者: 港千尋出版社/メーカー: エヌティティ出版発売日: 2008/11/17メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 9回この商品を含むブログ (21件) を見る 美しい写真集『レヴィ = ストロースの庭』には、51葉の印象深い写真の狭間に、レヴィ =…

リアリティ

並べない訳にはいかない。重ねない訳にはいかない。 レヴィ=ストロースの庭作者: 港千尋出版社/メーカー: エヌティティ出版発売日: 2008/11/17メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 9回この商品を含むブログ (21件) を見るDerek Jarman's Garden作者: Derek …

大人の心も開く『笑顔のコーチング』

子どもの心を開く 笑顔のコーチング作者: 本間正人,小巻亜矢出版社/メーカー: 大和書房発売日: 2008/10/23メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 3人 クリック: 10回この商品を含むブログ (5件) を見る 町内や大学という小さな規模で「笑顔のミッション」を…

地域の特徴と地球温暖化

日本の大学で唯一のブドウとワインの研究所が山梨大学にある。その名も「ワイン科学研究センター」。60年以上の歴史をもつ。山梨といえば、ブドウの生産量日本一。 山梨大学ワイン科学研究センター 国立大学法人 山梨大学 - 山梨大学発ワイン 今日の朝日新聞…

三浦梅園とウィトゲンシュタイン

数年前から私の研究室の本棚の一隅に三浦梅園コーナー(二冊しかないが)がある。だいぶ前に、金ちゃんが、大分の悠ちゃん(id:sap0220)を訪ねる際には三浦梅園資料館に行きたいと語っていたときにピンと来た。そして一週間前に、とうとうその理由が明かさ…

メタヴァース(Metaverse)

Mobile Society Review 未来心理 NTTドコモが運営するモバイル社会研究所が発行する季刊誌『Mobile Society Review 未来心理』が全国から投稿論文を募集する「査読誌」になるという。主な査読者として橋本秀紀氏と宮台真司氏が抜擢されているが、社会学者の…

『悲しき熱帯』の消息

昨日取り上げた石田博士記者による朝日新聞夕刊の連載「「悲しき熱帯」を歩く」は今日の5回目「ただ一人、年月見つめ」が最終回だった。石田氏は今回のナンビクワラ族の集落の訪問取材を通して、70年前に調査に訪れたレヴィ=ストロースが『悲しき熱帯』(1…

ナンビクワラ族の運命

朝日新聞の夕刊で9月29日からひっそりとある連載が始まった。サンパウロ在住の石田博士記者によるものである。 「悲しき熱帯」を歩く 石田博士さんと言えば、あの、昨年の夏にブラジルのアマゾンで近代文明との接触を断っていたインディオの一部族メチキチレ…

僕の神様は歩く人の神様なんです。

asin:4839700966 (「パタゴニア地図」3頁) パタゴニア(Patagonia)は南アメリカ大陸の南緯40度付近を流れるコロラド川以南の地域の総称。アルゼンチンとチリの両国に跨る。... (http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%82%BF%E3%82%B4%E3%83%8B%E3%8…

花咲か爺の幸福の哲学2:死の認識

製品は劣化し、生物は老化する。製品にも生物にも寿命がある。しかし個々の製品や生物の寿命を正確に知ることはできない。そこで、保証期間や平均寿命が実験的にあるいは統計的に推測される。製品の場合には「加速劣化試験」があるが、生物の場合には歴史的…

花咲か爺の幸福の哲学1

人生はなかなか自分の思い通りには運ばない。そんなの当たり前。そして、しかし、そこが醍醐味。「自分の思い」にとらわれすぎると実は楽しいことがいっぱい起こっているのに気づかずに通り過ぎてしまうもんなんです。そのときまでの「自分」なんて潔く捨て…

眠りとは何か

「夢」 眠っている間には何が起こっているのだろう、と時々思う。その日までの全記憶を未知のやり方で総点検して、「傷」を修復しているのだろうか。もしかしたら、その全記憶とはイヌやヒトとして生まれてくる以前の、三木成夫先生がいうところの「生命記憶…

いっそのこと眼を瞑って歩いて写真を撮りたい

歩くこと自体を楽しむようになると、まるで足が眼になったような、あるいは足で世界を見ているような感覚が芽生えてくるから不思議である。足の眼が脳に合図を送ると、脳が手に指令を送り、カメラのシャッターを切る。そんな一連の無意識の動きが少しずつ身…

記憶と引用

歌の祭り作者: ジャン・マリ・ギュスターヴ・ルクレジオ,Jean Marie Gustave Le Cl´ezio,管啓次郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2005/03/15メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (18件) を見るメキシコの夢 旅は、心へと向かうものでなけ…

よく分からないのがイイ

左:『文學界』2006年1月号表紙:内藤礼「返礼」2005(アサヒビール大山崎山荘美術館) 右:『文學界』2007年9月号表紙:内藤礼「母型」2007 id:mmpoloさんが内藤礼の作品は「よく分からない」と書いている。 「内藤礼の作品がよく分からない」(『mmpoloの…

すべては結ばれている

1885年、先住民の土地を買い上げようというアメリカ政府の申し出に対する回答としてルンミ族のシアトル酋長が諸部族連合会で演説を行った。ル・クレジオはそれを「人類に遺された最も美しいメッセージ」であり、「世界のすべての学校で教えられるにふさわし…

性差という観念を超えて

ニューヨークからサンフランシスコに活動の拠点を移して頑張っているid:mika_kobayashiさんが性差sexualityをめぐる自らの変さqueerさ加減についてもっともなことを書いていた。mika_kobayashiさんとは微かなジョナス・メカスつながりである。 2008-08-22 th…

島から島へ:ナマコ先生から学ぶ

鶴見良行(1926–1994)というかなり変な人がいた。『バナナと日本人』や『ナマコの眼』など、いかにも目のつけどころが普通ではないことが感じられる変な題名の本の著者としても知られる「歴史ルポルタージュ作家」である。ナマコ? そう、あの海の生物のナ…

島嶼世界論

「島嶼」と書いて「とうしょ」と読む。大きな島や小さな島、つまり島々という意味である。今福龍太流に「群島」とも言い換えられるだろう。英語では 'archipelago(アーキペラゴ)'。 asin:4622036533 日本(人)批判の思想的視座として「東南アジア島嶼文化…

感情教育

This image is in the public domain.*1 一時的な感情に振り回されるのが人間の性(さが)だとすれば、そんな人間にある意味で終止符を打ったがフーコー(Michel Foucault, 1926–1984)だったのかもしれないとふと思った。「もっともっと思考せよ!」と。ち…

樹木の思想

前掲のアストゥリアス著『グアテマラ伝説集』(国書刊行会、牛島信明訳、asin:B000J8X9UG)を慣例を破って二頁も読んでしまった。そして驚いていた。こんなことが書いてあった。 樹木は、埋没した都市に住んでいる人々の吐く息を吸っているのだという信仰が…

花咲か爺、現る

そういうわけで、この正直者の手拭爺は町内の花咲か爺としてデビューすることになった。会う人会う人に爽やかな笑顔を振りまいて、みんなの心に花を咲かせるのだ。ミッション・インポッシブル? ポッシブルさ。もう矢は射抜いたんだから。あとは限度を知らぬ…

帰還:死者の眼差し

さて、いうまでもなく、シュッポロを舞台裏で支えてくれたヒグマの親子、宮澤賢治、吉田一穂、アイヌの妖精たちなどは、人間を超えた存在やこの世の生を超えた存在(死者)の視線、眼差しを代表するものたちでした。私たちの人生、日々の言動は、動物たちや…

いざ北へ2008その23 体験の敷居1

これは独立したエントリーとしても、前エントリーの続きとしても読めます。(...だから、例えば、)私はこのブログ上で一冊の本の定型的な紹介はできるかぎり避けています。だって、一冊の本単位で読書体験なんかしてないもん。中西さん(id:gintacat)が暴…

いざ北へ2008その22 頁のない本

非常によく出来たメディア、一種の器としての書物、本の客観的な姿についての手堅い認識は、京都の中西さん(id:gintacat)に任せて、ウェブの恋路をなりふり構わずひた走る私は、もう少し主観に身を委ねて、自分の側から本について語りたい。以下は敢えてす…