思想

ゲームの終わり

二十歳そこそこの悩み多き学生たちと接していると、その年頃には自分はどうだったかな、と自然と振り返っていて、そういえば、マルセル・デュシャンに夢中だったな、なんてことを思い出しもし、本棚から古い本を引っ張り出してきて読みふけっていたりする。…

反消費の逆説

辺見庸による渾身のチェット・ベイカー論「甘美な極悪、愛なき神性」のひとつの眼目は、「反消費主義」、「反資本主義」にある。辺見庸は「仮説からの推論」、「妄想」と断った上で次のように語る。 もうひとつの推論は、チェットという甘美な悪は、あまりに…

魂と霊

同僚の数学者、山内さんが、私と下川さん(id:Emmaus)とのコメント欄でのやりとり(http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20090819#c1250698984)を面白がってくれて、特に「魂と霊の違い」について、次のような魅力的な意見をメールで寄せてくれた。山内さん…

地平という無言のバイブル

たしかに、藤原新也が語るように、ぼくらは実は傾き歪んだ地平とは言えない浅はかな舞台の上で生きることを余儀なくされてきたようだ。 ぼくは、<旅>を続けた……多分に、愚かな旅であった。時に、それは滑稽な歩みですらあった。歩むごとに、ぼく自身とぼく…

マサオ君の庭の思想2

Derek Jarman's Garden作者: Derek Jarman,Howard Sooley出版社/メーカー: Thames & Hudson発売日: 1995/06/01メディア: ハードカバー購入: 9人 クリック: 49回この商品を含むブログ (24件) を見るDerek Jarman's Garden (60th Annivers (60th Anniversary E…

村崎太郎さんへ

朝日新聞朝刊2009年7月29日 ボロを着た王子様作者: 村崎太郎出版社/メーカー: ポプラ社発売日: 2009/04/16メディア: 単行本購入: 5人 クリック: 23回この商品を含むブログ (2件) を見る 「中上は部落ちうもんをわかっておらんなあ。中上の部落認識は暗くて浅…

不知火海の打瀬船

あれよあれよという間の展開だった。2009年7月8日午前、「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法」が成立した。大きな争点になっていた政府与党案のチッソ分社化に反対していた民主党が急速に歩み寄る形で合意し、急転回の成立とな…

坂口恭平の「巣」の思想

坂口恭平『TOKYO一坪遺産』(春秋社、2009年6月) 私がもっとも注目する建築家の一人である坂口恭平さんが『0円ハウス』(asin:4479391673, asin:4898151175, asin:4899980884)に続いて、独創的な視点からの斬新な調査結果に基づいた新たな建築ルポルター…

絶対的な他者

琵琶法師―“異界”を語る人びと (岩波新書)作者: 兵藤裕己出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2009/04/21メディア: 新書購入: 4人 クリック: 34回この商品を含むブログ (29件) を見る目が見えないということは、たんに視知覚を欠くということではなく、むしろ目…

原罪の思想:緒方正人の闘い

昨日の朝日新聞朝刊に、「水俣病問題 『個の責任』に立ちかえれ」と題された緒方正人(おがたまさと)さんによる長文の意見広告が掲載された。緒方正人さんの思想と行動に深く感動した。 緒方正人「水俣病問題 『個の責任』に立ちかえれ」(2009年6月18日朝…

日常と死刑制度

辺見庸「犬と日常と絞首刑」(2009年6月17日朝日新聞)が面白かった。辺見氏によれば、天皇制ともどこかで通底する死刑制度を容認するこの国で暮らすことは、根源的に暴力を容認する前社会的な世間(=「非言語系の感情的な閉域」)に立てこもり、引きこもる…

「絵引き」の発想、念仏を栖(すみか)とす

非常に優れた自伝である宮本常一の『民俗学の旅』の最終章は「若い人たち・未来」と題されている。基本的には、「可能性の限界をためしてみるような生き方」(194頁)、「生きるということはどういうことか、また自分にはどれほどのことができるのか、それを…

現代のアモシュトリ

今福龍太著『身体としての書物』にいろいろとインスパイアーされながら、結局のところ、と思い至ったのは、書物とは人生を最も深いところで導く「暦」のようなものではないかということだった。書物の消息を追うなかで、今福さんにとってもっとも重要な霊感…

旧暦の世界

新暦に切り替わる以前の旧暦に生きた人々の年間を通じて世界を祝福し続けるような賑わいや、旧暦が新暦に切り替わった後の混乱とそれによって失われてしまったものの大きさは想像を遥かに超える。私のように新暦が「新」と意識されることもなく、それが当た…

見すぼらしくて美しいもの

佐野眞一は『日本のゴミ』(asin:4480033297)の「エピローグ」で梶井基次郎の小説『檸檬』(1925)の一節をどの版か不明だが新字旧仮名で引用している。 何故だか其頃私は見すぼらしくて美しいものに強くひきつけられたのを覚えてゐる。風景にしても壊れか…

堕落論

asin:4101024022 まさか、坂口安吾の『堕落論』*1を読み直すことになろうとは思いも寄らなかった。 [ asin:4101316333 彼女は、安吾のいう、人間が生きるということは結局堕落の道だけなのだということを、文字通り身をもってわれわれに示した。彼女は小賢し…

瓦礫の思想、ゴミの思想、0円モデル

クラッシュ―風景が倒れる、人が砕ける (新潮文庫) ……黒々とした焼跡のなかで、突然、信じられないような光景にぶつかった。私はその場に、しばし呆然と立ち尽くした。見渡す限りの廃墟のなかに、両手を大きく広げたキリスト像が立っていた。信じられないこと…

坂口恭平と宮本常一

先日、坂口恭平さん(1978年生まれ)の仕事をごく簡単に紹介した。 究極のサバイバルのモデル(2009年02月23日) 坂口さんの仕事を知って以来、とても明るい幸福な気分が持続している。「家」とはそもそも何か。「家」はどうあるべきか。「家」から始まり「…

タクオの「才能運用」論と琉夏酒店

先日、沖縄のクース(古酒)を再現した絶品の「萬虎」を土産に訪ねてくれたタクオ(平岡さん)が、その時色々と話したことをもとにして、「才能運用論」とでも言うべき新鮮な報告「再開しましょうかね、」(『takuo.. .』2009/2/16 月曜日)を上げてくれた。…

語りの作法

悼む人作者: 天童荒太出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2008/11/30メディア: 単行本購入: 9人 クリック: 104回この商品を含むブログ (171件) を見る天童荒太『悼む人』では、見知らぬ他人が死んだ場所を次から次へと訪れては独自のやりかたで「悼む」旅を続…

think pessimistically act optimistically

もっとよく知り、もっと深く絶望する その後、坂本龍一さんとのやりとりは、イタリアの思想家アントニオ・グラムシ(Antonio Gramsci, 1891–1937)の名言の意味を改めて噛みしめることで一段落しました。 大局的には絶望的ですが、 坂本さんが実践なさってい…

島尾伸三『季節風』を読む1

島尾伸三『季節風』(asin:4622044064)を読んで、「狂気」という言葉を他人事のように安易に使ってはいけないことを肝に銘じた。母親の狂気とそれを庇護した父親の優しすぎる愛の下で、幼い兄妹は命を蝕まれていった。妹を救ってやれなかった兄はその後、狂…

信仰との距離

島尾伸三は家族四人で数年過ごした茅ヶ崎の「東海岸」を20年ぶりに訪れたとき、自然と足が茅ヶ崎カトリック教会に向いたという。そこで彼は奄美大島の名瀬マリア教会での母親の振舞いなども想起しながら、特に父親が大切にしていた信仰と己の「無神論的な現…

今いる場所に言葉を届けようとして

今いる場所に言葉が届かない。届けようとしてもがく。言葉の海が時化る。決して届かないことに気づかされたとき、届かないままに言葉の海が凪ぐのを待つと、馴染んでいたはずの言葉たちが見知らぬ姿を現わし始めることがある。そんな時、詩の言葉の傍にいる…

はなさかじいさんの歌

「やきとりじいさん」の歌と「やきとりじいさん体操」に深くインスパイアーされた花咲か爺は、早速、精神と身体の両面から「はなさかじいさん」計画を練りはじめた。精神的には「はなさかじいさん」の歌を作ること、身体的には「はなさかじいさん」にふさわ…

美しいダムと街海

二つの驚きがつながって、もう一度驚いた。ダムが美しいはずがない、と思い込んでいた私の目に、たしかに美しいダムのイメージが踊っていた。 ”ダムの女王”白水ダムほか、「水の文化遺産」をめぐる旅(『メレンゲが腐るほど恋したい』2008-11-11) ダムに沈…

追悼、加藤周一

このブログではいままで加藤周一については一度だけ、しかも間接的にしか触れたことがない。(意外だった。) 今一番手に入れたいと思っている本は、与謝野晶子(1878-1942)の『心の遠景』(日本評論社、昭和3年)である。これは装幀が加藤周一の先輩の木下…

Minha Vida、サウダージ

Saudades Do Brasil: A Photographic Memoir作者: Claude Levi-Strauss,Sylvia Modelski出版社/メーカー: Univ of Washington Pr発売日: 1996/09/01メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (1件) を見る Saudades De São Paulo - Claude Levi-Strauss…

時が降り積もる

藻岩山の写真にかんして、下川さん(id:Emmaus)が「全体」が見えないのはどうしてかなあと、変な質問を投げかけてくれた。「変」とは、最高の賛辞である。それは「深い」とも読む。 今までずっと藻岩山の写真をその時々に目を凝らして見ているのですが、な…

私の神話的時間、私のブリコラージュ

9月9日に捥(も)いできたヤマブドウ(山葡萄, Crimson glory vine, Vitis coignetiae)の果実と10月25日に拾ってきたナナカマド(七竃, Japanese Rowan, Sorbus commixta)の果実。 どこかで瞬間瞬間の平穏を実現しようと身構える、現在への配慮が紡ぐ意識…